作家になるまで・作家を休止するまで

 

 


『増補 夢の遠近法 -初期作品選-』山尾悠子著を読む。 

 

「自作解説」が貴重。評論家が類推・分析したんじゃなくて本人が解説して手の内をあかすのだから、ありがたい。以下感想をランダムに。

 

『夢の棲む街』
デビュー作だが、そうとは思えないほどの出来栄え。20代前半ですでに世界が完成していたとは。「京都という街、泉鏡花から倉橋由美子澁澤龍彦まで読書してきたことのすべて、言葉を用いて架空の世界を構築しかつ崩壊させること」(「自作解説」より)

 

『月蝕』
タイトルは「読み耽っていた塚本邦雄の小説の影響だと思う」(「自作解説」より)
京都が舞台の大学生たちの青春物語風。意外に思われる方もいるかもしれないが。大学生の叡里が姉の子ども(真赭)を預かることになって振り回される。オチが利いている。「ゼミのコンパ」とか出て来る。懐かしい。あ、いまでいう呑み会。

 

『遠近法』
まずは「腸詰宇宙」に圧倒される。それは「基底と頂上の存在しない円筒形の塔の内部に存在している。その中央部は空洞になっており、空洞を囲む内壁には無数の回廊がある」。という描写は、「スター・ウォーズ」の冒頭シーンを思わせる。偶然、ボルヘスの『バベルの図書館』に似てしまったと「自作解説」で述べている。郝景芳(ハオ・ジンファン)の『北京 折りたたみの都市』と発想が似ているかも。

 

『童話・支那風小夜曲集』
和洋ばっかじゃなくて趣向を変えて中華風(シノワズリー)短篇連作。「谷崎潤一郎の『人魚の嘆き』」(「自作解説」より)にインスパイアされたとか。芥川龍之介佐藤春夫的なモダンさも感じる。『スープの中の禽(とり)』にひかれた。貧しい料理人の唯一の楽しみはペットのあひるの世話。あまりにも仲睦まじく、なぜかお妾さんが嫉妬する。旦那に料理人にそのあひるでスープを作らせることを懇願する。あひるは自ら羽根をくちばしでむしって熱湯に入る。料理人は夜な夜なお妾さんの元へ通い、お腹に話しかける。「あひる、苦しいか」「いいえ、それほどでも」

 

『透明族に関するエスキス』
文字通り世にも稀な「透明族」のスケッチ。「アニメーションかCGによる動画のイメージ」(「自作解説」より)で書いたもの。これはぜひ3DCGで見たいものだ。

 

『天使論』
母校・同志社大学が舞台で、実際に起きた話をベースにしたものとか。ミッションスクールは、オカルトもの、怪奇もの、幻想ものなどで、絵になる。この作品を最後に長い沈黙期間に入る。

 

ぼくも「ツタのからまるチャペル」でおしゃれなキャンパスライフを送りたかったが、どこも受からず。結局、サヨク系の大学に拾われてサブカルクソ野郎になっていまに至る。


作者が卒論で書いた泉鏡花。原稿が戻って来なかったとか。残念。ああ、読んでみたかった。


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