『山の人魚と虚ろの王』山尾悠子著を読む。
冒頭の数行を読む。作者の世界に吸い寄せられる。
その文体。漢字を多用した文。
思いつくままに挙げるならば、泉鏡花、渋澤龍彦、金井美恵子、須永朝彦、葛原妙子、塚本邦雄などを継承するかのような、一種の擬古文ではないだろうか。
話はこうだ。年の差婚した男は若い妻と新婚旅行に行く。
行く先は「高原都市」にある「夜の宮殿」。二人は縁戚関係にあった。
男はエキセントリックな妻の行状や物言いに戸惑いながらも
短い旅行を楽しもうとする。そこで起きた数々の不思議な出来事。
確かに著者の作品ではもっとも読みやすいかもしれない。
読みやすいが、それが夢なのか、現なのか、幻なのか。
また過去、現在、場合によっては未来まで時制が一緒くたになっている。
男と妻の衣裳から列車、駅、宿泊先のホテル。
さらに出される料理などの濃厚な言い回し。とりわけ食べ物の描写がゴージャス。
フェティッシュ(偏愛)の大聖堂。
舞踏集団「山の人魚団」の一員だった叔母が亡くなって急遽予定を変更、葬儀に参列する。『山の人魚と虚ろの王』は「団の代表作」。妻が団の後継者になることを知る。
「夜の宮殿」に泊まった二人。バーでの降霊会に参加する妻。
男は新婚旅行中に亡くなった母親と出会う。母親に妻を紹介する。
「虚ろの王」は機械仕掛けで動いていた。オートマタだったのか。
二人は機械の山へ行く。
ボルヘスの『バベルの図書館』を彷彿とさせる図書館が出て来る。
二人に子どもが生まれるが、この子どもも…。男の妄想なのか。
男は生きているのか、死んでいるのか。妻は人間なのか、機械なのか。
二人は夫婦なのか、本当に新婚旅行に行ったのか。
めくるめく思いでページを捲る。日本幻想文学の極みといえる作品。