『連弾』塚本邦雄著 を読む。
河出文庫の「塚本邦雄作品」シリーズの最新刊は「全集未収録の短篇全5篇を収録。初の文庫化。」だそうで。ともかく、じっくりと舐めるように読む。つーか、ぱっぱかとは読めない。人物のいでたちからインテリア、料理、酒、器から音楽、絵画、文学、映画まで細部にいたるまで作者ならではのスタイリッシュな美意識が宿っている。
3篇、紹介。
『奪』
大学院で蠅を殺す毒草の研究をしている香也子。画家である美貌の若者・雄飛から故郷に自生している黄天狗茸のことを知る。彼は眼を患っていて近い将来、失明すると。雄飛をめぐっての香也子と星策の三角関係。見舞いと研究を兼ねて彼の実家へ。二人は結ばれる。香也子に溺れる雄飛。弄ぶ彼女。文字通り毒婦なのか。
『連弾』
高梨憧憬は手首の腱鞘炎によりピアニストとしての人生を絶たれる。憧憬を想う庭師・八朔、調律師・笹倉。八朔もかつてはピアニストを目指していたが、憧憬の才を見て諦めた。連弾は、憧憬と八朔の愛を象徴するものだが、もう一つ、憧憬の妻である未絵と姑・うてなとの激しい諍いぶりも、もう一つの連弾と言えよう。どろどろの愛憎劇。ルイ・マル監督の映画『鬼火』が紹介されている。サティブームの一因となった、きわめて退廃的な作者好みの作品。
『かすみあみ』
「私」は巫女のような能力のある老女・かみら刀自に古鏡を届けに行く。そこで自らの死の光景を目撃する。古今東西の珍品・稀品を取り揃えている古美術店の主人、混血の美少年、妖しげな美少女たちが絡む「幻想譚」。中条省平の解説によると「神話イカロスの転落の悲劇」だとか。鏡は彼岸と此岸の扉で「コクトーの映画『オルフェ』」の鏡のシーンのオマージュ。
解説が素晴らしい。
『『連弾』のころ 山尾悠子』
学生時代、著者の高額な単行本を買うため、食費を削った話が泣かせる。嫁はんが何冊か持っているが、中身に負けず劣らず、凝りに凝った豪華美装本。
『華麗な惨劇の淵へ 中条省平』
こちらも大学浪人時代に著者の本にしびれたエピソードから各篇の解説。あらすじやらネタ元などが。ここを読むと、さらに作者の世界に近づける。
例えるならば、有田焼の器に入った高級ふりかけ錦松梅のような…。ファンからは冒涜だと言われるか。