罰ゲームか

 

 

 水着の生地製のマスクを濡らして家を出る。気がつくと乾いている。
これでも十分、暑い。不織布マスクよりはマシだけど。
何かの罰ゲームを受けているように歩く人たち。

 

『なにかが首のまわりに』チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ著 くぼたのぞみ訳を読む。

 

ナイジェリアで生まれ、アメリカの大学に留学した作者。
ナイジェリアとアメリカ、2つの異なる国で体感した文化・風習、価値観などを
巧みに仕立てたセンシティブな短篇集。

 

数篇、内容と感想を短く述べていく。


『なにかが首のまわりに』
ナイジェリア人の「きみ」は、「運良く」アメリカのヴィザが取れて、アメリカに来ることになった。生活のためにレストランで働く。大学に進学したかったが、金がない。「きみ」は、図書館で本を読む。思い出すナイジェリアの日々、家族、親戚、友だち。レストランの客だった大学生の男と知り合う。アフリカ通。「つきあってくれないかな」と言われる。口では「ノー」と言ってはいたが、内心、ひかれるものがあった。
中華レストランでデートを重ねる。アメリカで暮らし始めた頃に「首にまきついていたもの」は、なくなる。
彼の両親にも紹介される。アフリカに偏見のないリベラリスト。やっと国もとの親に手紙を出す。ドル札も入れて。すぐに母親から返事が来る。「きみ」は、急いで国に帰ることになる。同行するという彼の申出を断って。異化から同化へ。素敵なラブストーリー。

 

『震え』
プリンストン大学へ通う」ウカマカの部屋のドアが強くノックされる。同じフラットに住むナイジェリア人の男だった。その日は「ナイジェリアで航空機が墜落」「ファーストレディが死」んだ日。彼は同国人と共に祈りたいと。男の名前は「チネドゥ」。
キリスト教徒でありながら宗派が違う。彼女は聞き上手な彼に好意を持つようになる。大学のや将来のことを話しているうちにコイバナ(恋話)となる。男と別れたばかりの彼女。ゲイだと告白した彼。かつて妻のいる男と付き合っていたという。
気遣い上手ややさしさはそうだったからかと腑に落ちる。チネドゥはプリンストンの学生ではなかった。そしてヴィザも切れていた。

 

『結婚の世話人
おじさんが「アメリカの医者」との結婚話を持ち込んだ。同胞のナイジェリアの男。玉の輿を期待しないでもなかったが、実際は研修医。
薄給でハードワーク。夫は上昇志向が強く、アメリカに不慣れや違和感を抱く「わたし」に注意する。たとえば「リフトではなくエレヴェーター」など、一事が万事、この子。名前も「チナザ・オカフェル」からアメリカ風の「アガサ・ベル」へ改められる。
夫は「グリーンカードを手に入れるために」偽装結婚していた。それが「わたし」との結婚を聞きつけて元妻が脅迫しているという。

 

デラシネ(根無し草)となって新しい土地に根を生やす。
チェーホフ的なところもあるが、チェーホフほど悲観的ではない。
日常生活で感じたディテールを組み立てていく手法は
アリス・マンローにも通じるところがあるが、もっとエンタメ度が高い。
アウトサイダーの視点が冴えているあたりは多和田葉子にも近いかな。


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