湿る

 

天来の美酒/消えちゃった (光文社古典新訳文庫)

天来の美酒/消えちゃった (光文社古典新訳文庫)

 

 

いきなりの衣替え。

 

『天来の美酒/消えちゃった』コッパード著 南條竹則訳を読む。
感想というかあらすじ紹介。

 

『消えちゃった』


訳者が変っても、何回読んでもよくできている。
素晴らしい消えっぷり。
平井訳だとゴーストストーリーぽいのに、
南條訳だとSFぽい。
トワイライトゾーン』が好きな人には、たまらない話。

 

『天来の美酒』


外国の小説を読んでいると、会ったこともない遠縁の人から
ある日、莫大な遺産を相続する話に出くわす。
そういうことがないかなと思ってずっと生きている。

 

おばから古い屋敷を相続することになった独身青年。
ただしおばが生きているうちは「年金500ポンドを支払う」ことが条件。
おばはギャンブル依存症らしい。
屋敷で古い麦酒(エール)を見つける。
試しに飲むとこれが極上。

 

屋敷前に車が停まる。
中からきれいな女性が。青年は心を奪われる。
おばが亡くなったときに祝杯用と決めていた極上の麦酒(エール)を振る舞う。
おいおい。

 

『天国の鐘を鳴らせ』

 

農民の子と生まれた男は俳優となる。
間もなく土地の人気俳優となるが、酒に酔い歩行が困難となる重傷を負う。

俳優の道が閉ざされた彼は、説教師となる。


雇い主は人々を自身の信仰するキリスト教に改宗させることを目的に。
いわば広告塔となった元俳優は説教のうまさで人々を魅了する。

 

布教先で若い娘と出会う。
彼女にはいいなずけがいた。
お互いに好意を持っているが、いいなずけがいるという理由で
それ以上は踏み込ませない。

 

雇い主の企みを知って袂を分かつ。
背に腹は代えられず、大道芸よろしく路上説教で投げ銭をもらう。

 

結婚した彼女は、重い病を患い、亡くなる。

自暴自棄となった男。
病を患い修道院の病院へ「担ぎ込まれる」。

 

コッパードは父親譲りの「無神論者」だった。
小さい頃から苦学して職業も転々として作家になった。
世の中の仕組みや裏を否応でも知らされて
リアリストになったのではないだろうか。

 

主人公は卓越したパフォーマンスで神の存在をアピールしたが、
自身はたぶん作者同様「無神論者」だったのだろう。

 

死を迎える前に浮かぶ光景。

 

堂々たる古典的悲劇。
なぜかは知らないが、世界にはまりこんでしまった。

訳者の解説でコッパードが「ロシアの作家ではチェーホフが一番好き」ということを知る。
腑に落ちる。


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