掌(てのひら)の大宇宙―豪華絢爛な幻想的世界をご堪能あれ

 

 

須永朝彦小説選』須永朝彦著 山尾悠子編を読む。

名前は知っていた。塚本邦雄のお弟子で歌人や文藝評論家のような人と勝手に思っていた。小説も書いていたとは。

 

編者に惹かれて読んでみた。代表作といわれる『就眠儀式』など。こ、これは。

いきなり豪華絢爛な幻想的世界が広がる。旧仮名遣い、外国の都市などもすべて漢字表記。洋物だけでなく和物も絶品。何篇かの作品を手短に。

 

『就眠儀式』
曠野で迷子になった日本人の「私」。
チェンバロの音が聴こえ「東欧風の館が顕れる」。
そして「金髪碧眼の青年が」現われる。
迷った地はトランシルヴァニア。青年は「ヘルベルト二世」と名乗る。
酒を振る舞われるが、眼は冴えるばかり。
青年は安眠できる呪文を教えてもらう。
トランシルヴァニアといえば、ご存知…。
文庫で5頁余の作品なのに、長篇小説に匹敵する濃厚さ、ノーブルさ、妖しさ。


『樅の木の下で』
主人公は墺太利(オーストリア)の日本大使の子ども。
維納(ウィーン)の「ベルヴェデーレ宮の庭園」でヘルベルトに出会う。
公爵で「ハプスブルク家」の閨閥だと。
夜、自邸に招かれ愉しいひと時を過ごす。
ボヘミアの別荘に誘われる。
ヘルベルトは郷里のトランシルヴァニアに戻るという。
そこで一緒に暮らさないかと誘われる。一生遊んで暮らせる。
それを知った父親は激高する。
ヘルベルトについても身辺を調査させていた。
すると…。


『青い箱と銀色のお化け―架空迷走報復舌闘・大正文士同窓会』
江戸川乱歩谷崎潤一郎佐藤春夫が霊界から甦って当時を振り返るという形式。
途中、稲垣足穂が乱入。探偵小説などの文学的素養も深いが、
洒脱な読物に仕上げるセンスが、にくいばかり。

「『蓼喰う虫』の阿曽のモデルが大坪砂男」とは知らなんだ。
大坪は佐藤春夫に師事していたが、平井呈一も一時期佐藤春夫に師事していた。
両者に面識はあったのだろうか。

 

泉鏡花澁澤龍彦の系譜なのだろうか。
澁澤龍彦は1928年生まれ、須永朝彦は1946年生まれ。

 

あえて古色蒼然たる世界を描いてはいるが、そこはかとなくポップさを感じる。
少女漫画、宝塚歌劇、あとはグラムロックとか。『ジョジョの奇妙な冒険』とかも。

ビスコンティも。グラムロックわからない人はケンサクしてね。


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