「建物はその建つ『場所』に従え」

 

 

前川國男 賊軍の将』宮内嘉久著を読む。

 

江戸東京たてもの園に前川の私邸が移築されている。師匠のコルビュジエが晩年に建てた有名な南仏の小屋に勝るとも劣らない暮らしやすそうなモダンな木の家だった。

 

前川はコルビュジエの弟子になるほどだから、元来フランスびいきだった。音楽も当然フランスのものを愛していた。当時の建築の主流はドイツだったらしく、はじめからその「ゲルマン」的なものに対し、「違和感」を覚えていたという。

 

建築家になりたての頃は、ともかく建築コンペには必ず参加した。コンペで仕事を取るというその余りにも正々堂々たる仕事のスタイル。

 

「建物はその建つ『場所』に従え」

「いま最もすぐれた建築家とは、何もつくらない建築家である」といった数々の名言にもしびれる。

 

前川をよく知る著者は、当然対極的に位置していた丹下健三には辛口の評価をしている。変節の人だったと。副題の『賊軍の将』とは、丹下など自己主張の強い話題となる建物をつくる建築家に対してのアンチテーゼ、ある意味、自虐的な、自戒の念を込めての言葉なのだろう。「負けるが勝ち」という言葉を謹んで進呈したい。

 

前川の建物でいちばん馴染みが深いのは、かつては待ち合わせの定番スポットだった新宿紀伊国屋書店のビル。いまなら、世田谷区民会館・区役所か。子ども向けの映画やミュージカルやイベントで利用した。税金の相談などもにも行った。コンクリート打ちっぱなしの建物は、賛否両論あるが、世田谷区役所の場合は、古びていて、それがいい味になっている。待合室やロビーなど内観にも、なんとなく心地よさや温かみを感じるのは、ヒイキのひき倒しじゃないはず。しかし、老朽化のため全面リニューアルとなった。

 

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