まさか!著者死後60年に発見された未完の小説

 

 

 『戦争』ルイ=フェルディナン・セリーヌ著 森澤友一朗訳を読む。

 

その昔、セリーヌ生田耕作訳の『夜の果てへの旅』を読んで、痺れた。書名が『夜の果ての旅』だったはず。第一次世界大戦、フランスの植民地だったアフリカの一国での戦争。医学生の主人公が夜に飲むぬるいジントニックをなぜか覚えている。パンクな文体は戦争の悲惨さ、愚かさを兵士側から捉えていた。


本作も、第一次世界大戦に参戦、負傷。野戦病院暮しの「おれ」のモノローグが続く。
負傷した自身の克明な描写からはじまるシーンは、まるでノンフィクションを思わせる。ま、いわば実体験なのだから。相変わらず、ひりつく文体が魅力的。

 

巻末の「ルイ=フェルディナン・セリーヌ「1894-1961」年譜」から当該箇所を引用。

「1941年(20歳)
八月、第一次世界大戦の開戦に伴い、ルイの属する第十二連隊はロレーヌ地方へ送られる。激しい機動戦を戦い、十月にはフランドル地方イーベル近辺での戦線へ。十月二十七日、伝令の帰途、跳ね返りの弾丸によって右腕を負傷。近くの移動野戦病院で応急処置を受けた後、『戦争』の舞台となるアーズブルックの野戦病院に収容される。十一月、ジョフル元帥署名の戦功章が授与される。十二月、パリの病院に転院、銃後にて療養生活を送る」


反ユダヤ主義」者で「ナチス・ドイツ協力者」。ひねくれ者、嫌われ者。バタイユ言うところの「文学と悪」の系譜に位置づけられる作者。どこか初期・中期のミシェル・ウェルベックの小説にも通じるような。

 

戦争。書くにはうってつけのネタだと思うのは、作家の性(さが)ではないだろうか。んで、戦場では目や耳を大きくして光景を脳内に焼き付ける。まあ、確かに最後のあたりで「戦争万歳」と書いてある。でも、それだからといって戦争を賛辞していることにはならないだろう。

 

死と隣り合わせの戦争、戦場。ここでは、その人の本性が晒される。醜さ、狡さ、エゴイズム、自己憐憫などなど。医師でもあった作者は、言葉のメスで慮なしに掻っ捌く。

 

訳者解題でこの作品が発見されるまでの経緯を詳しく書いている。かなりドラマチックな話。残りのものもぜひ日本語訳で読みたいものだ。

 

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