「天井裏妄想」を読み解く

 

 

屋根裏に誰かいるんですよ。-都市伝説の精神病理-』春日武彦著を読む。

 

まず、江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』からはじまる。他人の私生活をこっそり覗き見したいという欲望は少なからず誰にでもあることだろう。

 

この本は、覗く方ではなく、覗かれる(と思い込んでいる)方。「屋根裏に誰かいるんですよ」「家に誰かが隠れている」と訴える人々が紹介されている。ホラー小説や幻想小説マニアでもある精神科医の著者が妄想や認知症など実際の臨床例を取り上げている。

 

なぜ、そう思うようになったのか。どんなふうに何者かが侵入しているのか。「天井裏妄想」は、人、それぞれ。

 

それが下手な小説よりよっぽど面白い。面白いというのは語弊があるかもしれないが。
ただし、その症例を一気に読むと結構、気が滅入るので、ご注意を。引用一か所。

 

「家というものはまことに気味が悪いものである。ごく普通のたたずまいと映っても、中には妄想が渦巻いていたり、病んだ人がうずくまっていたり、死体が腐乱していたり、いろいろな秘密が押し込まれている。時間は澱み、ときには実在しない人物が潜み、また「宇宙語」が交わされたりバリケードが築かれたりする。家は人間を住まわせる容器であると同時に、狂気を培養する孵化器でもある。そして家は我々の頭を模したオブジェだともいえるのである」

 

個人的な屋根裏、というか天井裏の思いでは、従弟の家の子ども部屋に備え付けの二段ベッドがあった。上のベッドから天井の板が外れることに気がついて、こっそり中に入ったことがある。といっても、ほんの少しだが。それでも妄想はひろがる一方だった。

 

引用、もう一か所。

「心の闇」が生む妄想も都市伝説も「双方とも「奇妙な憶測、異様な解釈」といったものから導き出されており、しかもそれはしょせん、誰の心の中にある「物語の胚珠」が発芽したものにほかならない」

 

物語を紡ぐのは作家だけではない。

 

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