地図にも載っていない小さな国の、知らない話

 

 

『異国伝』佐藤哲也著を読む。

 

「あ」の「愛情の代価」から「ん」の「ンダギの民」まで、誰も知らない国の短い物語が、書き記されている。五十音ごとのタイトルが決まってから、書き出したのだろうか。それとも、逆なのか。気になるところ。

 

「その昔、とあるところにそれは小さな国があった。あまりにも小さいので地図に載ったことがなかったし、旅行者向けの案内書にも載ったことがない」と、同じ書き出しではじまる。書き出しは同一でも、国はまちまち、ばらばら。

 

創世記のような、神話のような、童話のような、だまし絵のような。俗にいう時空を超えた国を覗く。作者の技巧ぶりに、想像力の豊富さに恐れ入りながら、ページをめくった。いろんな不可思議な味がする。欲をいえば、文字数までぴったり揃えれば良かったのに。作者ならお茶の子才々だろ。

 

子どものとき、理想の国の地図を描いたことがある。南の島で、四方は断崖絶壁で、敵がなかなか攻めることはできない。しかし、てっぺんは、平らで、緑が生い茂り、色鮮やかなトロピカルフルーツが実っている。こんな地図を色鉛筆で描いたことを思い出した。

 

食玩のおまけとして名高い海洋堂あたりに、ぜひこの本に出て来る国々のジオラマをつくってもらいたいもんだ。そしたら、コレクションケースに飾って、夜な夜な、脳の中の異国探訪を楽しめるんだけどな。漫画化するなら、諸星大二郎で意義な〜し!

 

ボルヘスの『伝奇集』や『幻獣辞典』を読んだときと、同様な眩暈を感じてしまった。まごう方なき大人のファンタジーだ。

 

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