飢えたインテリゲンチャの前で豆は有効か。有効だ

 

 

『四書』閻連科著 桑島道夫訳を読む。

 

黄河の周辺にある第九十九更生区がこの小説の舞台。『天の子』『旧河道』『罪人録』『新シューポスの神話』の「四つの書」から成る。登場人物は「作家」「音楽」「宗教」など職業名がそのまま名前になっていて、記号っぽくて面白い。

 

ここに収監された苛酷な農作業や鉄鋼の生産をしているのが、教授、教師、学者や芸術家、宗教家などのインテリゲンチャ層。彼らは、国家形成に害悪となる危険思想の持主である。よって捕獲して誤った思想を徹底的に正す、矯正しなければならない。知識人たちを監督、指導するのが「こども」。

 

「こども」とは、訳者が述べているように、文化大革命時の紅衛兵のことだろう。
毛沢東語録の書かれた赤い手帳がお守りで中国各地で反動分子とみられる人々を
不当に弾圧もしくは隔離した。

 

劉慈欣の『三体』にも、冒頭でそのシーンが登場している。

 

「こども」は、巧みに飴と鞭を使い分け、人心を掌握する。焚書はするが、坑儒はしない。本はあくまでも燃料用なので中身よりも分厚いことが最優先で評価される。危険な本を提出した者には小花がもらえる。作物の収穫量が目標をクリアしたら小花がもらえる。たんとたまると、無事放免、郷里に帰ることができる。

 

共産主義国家特有の計画経済。達成目標は高い方がいいと達成困難な目標数値を掲げる。士気は高揚するが、それは根拠のない根性主義の会社の営業部にも似ている。

 

「こども」は、農作や鉄づくりでどの更生区よりも優れた結果を出すことを望む。
彼は、国都に行って祝福を受けることを最大の目標にしていた。国の政策は過ちだったのだろう、予想外の悪天候で飢饉を迎える。

 

チャップリンの映画『黄金狂時代』にも空腹の余り、靴をゆでて食べる有名なシーンがあるが。凶作となり、食べ物が底をつくと、革の靴やベルトを食べる。それも食べつくすと餓死者の死体をバラして食べる。つい先日までは顔なじみだった人の肉を…。

 

「作家」が文字通り心血を注いで育てた麦は見たことがないほど大きな穂をつけた。
「こども」の期待に答えられると思ったが、誰かに麦穂は刈り取られた。

 

指導者である「こども」は、良い意味でも悪い意味でも無垢。政府からの命令には忠実なんだけど、当然幼い面もあって憎めない面もある。「こども」の最期は、感動的でもあるのだが。

 

ジョージ・オーウェルの『1984年』のなんとも救いようのない世界を想像したが、こちらは現実に起こったことに基づいている。なんかリアル過ぎてリアルに思えない。って変?ニュースで伝え聞く北朝鮮をイメージした。

 

「こども」とは、文化大革命時の紅衛兵を指しているが、ちょっとうがった見方をすれば、未熟な国家の暗喩とも見れないだろうか。

 

ゴダール『中国女』

紅衛兵

毛語録をかざす紅衛兵

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