『惑う星』もしくは惑う父―宇宙も未知で深淵なるものだが、心もまた同様だ

 

 

『惑う星』リチャード・パワーズ著 木原善彦訳を読む。

 

宇宙生物学者のシーオには9歳になる息子ロビンがいた。妻アリッサは熱心な環境保護活動家だったが急に亡くなる。父と子の二人暮し。元々心に問題があったロビンは母の死をきっかけに情緒が安定せず、学校で級友を傷つけるなどの問題を起こす。学校側やかかりつけ医は事務的に薬の投与など治療法をアドバイスするが、シーオは納得いかない。なんとかロビンを守ろうと、また恢復を願って躍起になる。

 

妻の知り合いの神経科学者カリアーに相談、彼の実験にロビンを参加させる。それは「コード解読神経フィードバック訓練法(デクネフ)」。訳者あとがきによると実際開発中とか。母アリッサの脳スキャンしたデータから「母の感情をロビンに追体験させる」というもの。その結果、ロビンは快方に向かうが…。

 

ロビンは母に似て大の自然好き。過剰なまでの生き物好き。うっかり車に飛び込んできたリスを父親がやむなく轢き殺したときの、キレっぷりたら。

 

ともかく父と息子の会話が知的で素敵かつ微笑ましい。友だち父子というか同好会の先輩・後輩のような関係。ま、父がそうなのはわかるが、息子の感受性や好奇心の豊かなこと。


合間に挿入される太陽系外惑星の話が、中身、表現ともに素晴らしい。さすが理系出身作家。

 

宇宙科学の発展に興味を持てない大統領の一存でシーオが関わっていた地球外生命を探査する一大プロジェクトは頓挫しそうになる。失望するシーオ。抗議をしに息子とワシントンへ行く。ロビンは動植物保護を訴える横断幕をつくる。そこで、また、ひと悶着。

 

ふと、映画『クレイマー、クレイマー』を思いだした。こちらは母は死別ではなく離婚だが。父親はいかんせん育児が、料理などの家事が、不器用なんだ。

 

脳内で母の気持ちにはふれられるかもしれない。一見、いいように思えるが、それは生身の母ではない。かえってつらいのではないだろうかと邪推する。それでも、母にふれたい切ない思い。

 

ネタバレするんで、じんとくる結末とだけ書いておく。

 

パワーズの作品では、比較的わかりやすいストーリーになっている。まだ読んだことのない人には最初の一冊としておすすめする。

 

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