心理学と経済学。とてもおおざっぱにいえば、かたや「心」を対象にし、かたや「お金」を対象にした学問である。
一見、相反するように思えるが、その実、経済が心に投げかけるものは大きい。まして現在のような状況下においては。
作者は、序章でこう記述している。
「心理経済学はマルクスとフロイトが起源ですが、まだまだ悩める状態の経済学にあった心のモデルから、新しい経済に的確に心に沿う心のモデルを模索していく領域です」
バブルがはじけて日本の経済がはじけるとともに、日本人の心もはじけてしまったのだろうか。
大学時代、履修した心理学のゼミの教授の請け売りであるが、日本はムラ社会で単一国家民族幻想が根強く定着している。だから、精神分析というものは日本人にはその必要がない。と、頑固に信じてきた。
随分前になるが、作家の故・森遥子氏に、雑誌広告で子育てのインタビューをしたことがあるが、第一子出産後、まもなく育児ノイローゼになり、セラピーに通っていた話を伺ったときは、あまりピンとこなかった。
その後、子どもが生まれてみて、親、特に母親の大変さがはじめてわかり、また世の中の育児に対するシステムや認識の遅れ(または違和感)に愕然とした。あ、ムラ社会の崩壊による血縁・地縁というセーフティネットの崩壊が始まったことも背景にある。カウンセリング不要論は、もろくも崩れてしまった。
そこを作者は「家族を市場原理で理解」しようと提案している。それには、「家族に心の問題を押しつけない発想」「市場に開かれた家族の発想とそのための家族間ネットワークの充実」「子どもが少ないほど育児の心理的な負担が重くなるという心理法則の普及」が必要であると。
金融同様、心つーか育児にもセーフティネットの早急な整備が求められていると。
本書は心理経済学の必要性を子ども、家族、日本社会などさまざまな切り口から論じられている。育児は盲目的な愛ではなく、冷静な戦略である。同感された方は、ご一読を。多くのものを得られるはず。