神は、脳が創った―サイバーテロの恐怖

The S.O.U.P. (角川文庫)

『The S.O.U.P.』川端裕人著を読む。

 

作者はデビュー作である『夏のロケット』では、ロケット。『リスクテイカー』では、ヘッジファンド、次の『ニコチアナ』では、タバコ及びタバコ産業について書いている。本作ではインターネットについてである。

 

『S.O.U.P.』とは、プログラミングを専攻していた主人公が大学時代に3人の仲間で制作したR.P.G.ソフトの名前。『指輪物語』や『ゲド戦記』にインスパイアされたゲームで、そのストーリー、斬新なグラフィックで世界的な大ヒットとなった。

 

彼はアメリカに会社を設立するも、数年後に身を引き、東京で暮らしている。その彼に経済産業省の女性から、調査依頼の仕事が来る。経済産業省のホームページを書き換えた犯人、「インターネットのアングラ界で注目されている」集団EGG(エッグ)を調べてほしいと。

 

やがて、日本のインターネットは何者かにハッキングされ、大混乱に。航空会社、銀行、鉄道からコンビニなどのオンラインシステムから、VoIP(インターネット電話)も当然不通となる。ネット社会の脆さが図らずも露呈する。またもやEGGからの犯行声明が。

 

調査を依頼した女性の正体は、EGGの尖兵と化したひきこもりのネットおタクは、また、かつての仲間との再会、次々と謎の死を遂げるハッカーたち。そしてEGGの真の狙いを突き止めようとする主人公。ネットゲーム『S.O.U.P.』のバーチャルワールドとリアルワールドが、錯綜する。

 

作者はネイチャーライターとしてノンフィクションも手がけているから、そのせいだろうか、やたら解説がだらだら続いていて難しいと思われるかもしれない。しかし、この部分が小説全体へのリアリティを与えているのだ。勉強だと思ってページをめくってほしい。

 

シミュレーション小説としても良くできていると思うし、クラッカーとヒッピーのルーツを探れば同じ出処であるなど、インターネットの歴史や仕組みも、ざっとだけど知ることができる。

 

同時多発テロに続いて、炭疽菌入り手紙によるバイオテロが起こっているだけに、サイバーテロもいまやその可能性が決して低いとは言えない。そう思うと、並みのホラー小説以上に背筋がゾクゾクしてきた。

 

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