なぜジャズは好きで嫌いなのか


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ジャズは、昔つきあった女に似ている。あるいはケンカ別れしたビジネスパートナーにも似ている。いまだに好きであったり、嫌いであったり。どうしてるんだろう、元気なのかな。と、頭の中がグルグルしてきて、三半規管がおかしくなりそうになる。

 

でも、俺が好きなのは、好きだったのは、ジャズであって、偏狭的ジャズファンではない。ジャズはLPレコードやCDなど聴くものだと思っていたが(俺は残念ながら楽器はできないので)、読むものだと思っている人が多い。ナット・ヘントフ、リロイ・ジョーンズ植草甚一油井正一鍵谷幸信などの著作で理論武装して、ジャズオルグで論破する。その当時のジャズは、知的アクセサリーだった。

 

高校ん時、友人に連れて行かれたジャズ喫茶。友人が、エレキに転んだばかりのチック・コリアをリクエストしたら、マスターに「チック・コリア、やめっぺ」と拒絶された。マイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー』でもオーダーした日にゃ、異端審問会にでもかけられるに相違なかったろ。で、かかったのが、ビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビー』だった。

 

浪人時代は、予備校をさぼって、ジャズ喫茶に通った。池袋にアヴァンギャルドというかフリージャズばかりかけるジャズ喫茶があった。長い沈黙を破ったオーネット・コールマンやサンラ、アーチー・シェップドン・チェリーなどを魔女顔のママがターン・テーブルにのせていた。真冬でも、真空管アンプには扇風機の風をあてていた。

 

下宿で山下洋輔トリオの新しいアルバムを聴いていたら、大家のバアさんに、怒鳴り込まれた。山下洋輔のハンマーのようなピアノと森山威男の前立腺に響くドラムス、バリバリバリと臓物が飛び出そうな坂田明のサックスに、鉄製の非常階段を上ってくる大家のバアさんのサンダルの音が絡んでくる。バアさんが白塗りだったら、暗黒舞踏でなおよかったのに。

 

持っていたLPは、圧倒的にロックが多く、数少ないジャズのアルバムの中に『ワルツ・フォー・デビー』もあった。大学のクラスにジャズが好きな女の子がいて、コンサートに誘った。郵便貯金会館でのビル・エヴァンスのコンサート。生ビル・エヴァンスは、リリカルなだけではなく、力強くスイングしていた。それから熱心なジャズファンではなくなっていった。

 

広告代理店にいた頃、アルバイトで『Mt.Fuji JAZZフェスティバル』のパンフレットのコピーを頼まれた。行方靖のブルーノートに関する原稿をリライトしたり、出演するプレーヤーのプロフィールをまとめたり、クサいキャッチフレーズをくっつけて。

 

その時、無性に『ワルツ・フォー・デビー』が聴きたくなって、会社のそばのCDショップに駆けつけた。聴いた。ただ単純によいと思った。よくジャズの入門アルバムとして取り上げられているが、大きなお世話だ。自分で聴いて、いいと思ったのを買えばいいってんだ。口当たりはよいかもしれないが、決してナンパじゃない。そこんとこ、よろしく!

 

『Waltz for Debby』BillEvansTrio/ビル・エヴァンス(ピアノ)スコット・ラファロ(ベース)ポール・モチアン(ドラムス)


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