すぐ読める すごく面白い

 

 

『おもいでマシン-1話3分の超短編集-』梶尾真治著を読む。

 

「1話3分」=400字詰め原稿用紙6枚。と、決めて書かれたショートショート
100文字SFならぬ2400文字SF。全40話。


あとがきで原点に立ち返って。とか、きっかけは「星新一に衝撃を受けた」とか書いてある。東京の電車なら一駅一話。ぼくの田舎なら一駅三話ぐらい読めるかも。

 

ホラー、伝奇・神話、ミステリ、バカミステリ、SF、バカSF、恋愛、落語の小噺などなどテイストはさまざま。当然だけど、うまい、早い、面白い。某牛丼チェーンのキャッチコピーのようだが。


ただうまいだけではないか。もはや超ベテランの域に達しているんだけど、あえて無謀な展開の話もある。作者のtwitterを見ていると、熊本好き、猫好き、山好き、温泉好きがわかるけど、この本にも反映されている。5篇選んで紹介。

 

『おもいでマシン』
自称天才科学者が発明した「おもいでマシン」。おもいでをリアルに再現する、つーか実体化させることが可能に。でも絵心のない男が初恋の女性を呼び出したら、そのままの顔の女性が現われる。うかつにも、子どもがマシンで怪獣映画の怪獣を呼び出してしまった。「おもいでエマノン」を思い出す。


『先輩がミャオ』
医療の研究をしている先輩に電話をかけたら何かおかしい。先輩の家には、医療ロボットと三毛猫のミャオがいた。先輩のマンションに行ってみると、先輩が突然重篤な状態になり、医療ロボットが先輩の頭と亡くなっていたミャオの体を合体させた。発情期を迎えて恐るべきことが。

 

『完璧な殺し屋』
完全犯罪を行いたい私に、とんでもない藪医者の情報が入る。彼の診察・治療を受けると確実に死ぬと。これだ!と思い、その医師を訪ねる。見た目は善人そう。手土産の酒を酌み交わす。私が飲むと体調が不良に。医師が酒に薬を入れたという。藪め!殺るのは私ではないのに。

 

『父のAI』
老いて認知症になった父親。主治医のすすめで彼の友人が取り組んでいるAIを父親の脳と連携させることにする。AIのおかげで症状は回復したように見えた。しかし、心臓発作で亡くなる。母親は父親の思考回路を学習したAIを手元に置く。口やかましさは生前の父親とそっくり。まんざらではない母親。ケン・リュウの世界にも通じる。

 

『鬼童岳(きどうだけ)の霧女』
鬼童岳を山歩きしている私。あいにくの雨の中、若い女性2人と出会う。山小屋でそのことを話すと、管理人はそれは霧女という幽霊だと。山小屋から帰路につくと老人と出会う。山小屋の管理人から霧女のことを聞いたことを伝えると、管理人はその山小屋で恋人と友人を殺して自死したという。ふと振り返ると老人は消えるようにいなくなってしまった。怪談のお約束パターン。私もこの世にいなかったというオチをさらにつけるのはくどいか。

 

暑い季節、食欲も読書欲も減退する季節。そんなときは、この本で暑気払い。

 

いちばん僕的に受けたのは『ペットショップのお薦め』に出て来る「インスタ蠅」。
笑った、笑った。映えるも、蠅るじゃ、なんだか一面蠅がたかっているケーキの画像を思い浮べるし。


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