『スノウ・クラッシュ 新版』(上)(下)ニール・スティーヴンスン著 日暮雅通訳を読む。
Facebookがメタに社名変更するとか。したのか。メタヴァースのメタ。この本に出て来るメタヴァースにちなんでいるとか。PC上に構築されたVR(仮想空間)のこと、いまやゲームなどでおなじみだが、その世界を先がけて繰り広げられている。
リアルタイムではウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』などサイバーパンクは読んでいた。それからしばらくSFからは離れていた。理由は覚えていないが。
主人公・ヒロはピザの配達人。いまならウーバーイーツの配達人ってところだろうか。
でも自転車ではない。ところが、それは表向きでほんとは凄腕のハッカーで刀の達人。
恋人は特急便会社の配達をしている15歳のスケボー少女Y.T。
ヒロたちが創ったメタヴァースに「スノウ・クラッシュ」と命名された新種のコンピュータ・ウイルスが現われる。「スノウ・クラッシュ」に感染するとアヴァターはもとより人間の脳にまで害を及ぼす。コンピュータ・ウイルスでありながら、まるでウィルスのような動きをする。さらに「スノウ・クラッシュ」はドラッグとして密かに販売されている。
ヒロとY.Tはリアルな世界とヴァーチャルな世界を自在に行き来しながら「スノウ・クラッシュ」を徹底的に調べる。役立つのがAIライブラリアン。電脳生き字引。Siriの先駆けか。ただしライブラリアンの方がずっと偏差値が高いようだ。
解決の糸口はシュメール文明にあると。このあたりのうんちくがマニアにはたまらない。たとえば。
「シュメール神話の登場人物でエンキという名の神経言語学ハッカー」が「ある時点でシュメールに未来がないということに気づいた―略―そして、人類の進歩のためには、ウイルス文明からの脱却が必要である」その結果、「メタウイルスによる束縛からおれたちを解放し、われわれに考える能力を授けた」
「おれたちはみな、ウイルス思考の力に左右されやすいんです。―略―いかにおれたちが賢くなろうとも、おれたちを自己複製する情報にとっての有効な宿主にしてしまう不合理な部分というのじゃ、いつまでも存在する」
「スノウ・クラッシュ」で世界征服を企む巨悪とバトルするのだが、そのアクションシーンが、痛快。
まだ日本のカルチャーやテクノロジーが世界を牽引したり、魅了させていた頃。正真正銘クールジャパンだった頃。タランティーノの映画のようになんだか気恥ずかしくなる箇所も。いまならそれは、中国、韓国、台湾あたりか。隔世の感を覚える。
バイクが疾走するシーンは、ふと大友克洋の『AKIRA』を彷彿とさせる。
ポスト・サイバーパンク小説として1990年代に刊行されたものだが、率直な印象は、いま読んでもまったく古びていない。