AI(人口知能)の此岸―小説も良いがエッセイも素晴らしい

 

 

『人之彼岸』郝 景芳著 立原 透耶訳 浅田 雅美訳を読む。

テーマはAI。

はじめの『スーパー人工知能まであとどのくらい』『人工知能の時代にいかに学ぶか』2篇のエッセイ。


AIのできること、できないこと。AIがどこまで進化しているかなどを興味深く解説している。もう少しふくらませれば、恰好のAIガイドブックになる。


例えばディープラーニング。「ディープラーニングはすべてビッグデータから最適化された行動手順を学習する」。その代表であるアルファ碁。
「大量のデータの中から抜きん出た戦術を探し出し、人間が理解できないスタイルで人間に勝利するのである」。
さすれば人間はAIにひれ伏すのか。職を奪われ路頭に迷うのか。否!作者はAIにはまだ「常識が備えられていない」と。常識はコモンセンス。共通認識のこと。
「私たちが当たり前だと考えている知識の総和が含まれ、私たちの環境や経済システム全体に対する理解が含まれる」。
それが苦手だと。さらにAIが「できないこと」は「世界観(専門的知識ではなく学際的、総合的な知識に基づくもの)と創造力(新しいものを生み出す能力)の二つだ」と。

以下6篇の小説のあらすじと感想を短く。


『あなたはどこに』
人工知能サービスプログラム『分身』」とは、AIの代行サービスのようなものか。多忙な人は、もう一人の自分がほしいとか思う。その声に応え、さらに顧客満足度を高めるようにするのだが。

 

『不死医院』
寝たきりになった母親を不治の病を治すといわれる病院に入院させた、息子チェン・ハイ。高額な入院費用。回復の兆しは見えない。葬儀の話を父親としようと実家に戻ると母親がいた。すっかり元気になっていた。しかし、病室には母親がいた。実家にいるのは誰?

 

『愛の問題』
AIが普及してついに危惧していた事件が起きた。「AI陳達(チュンダー)による傷害事件」。被害者はAIの第一人者・林安。それは単なる不具合、故障なのか。それとも殺意という感情によるものなのか。ところが犯人は息子の山水だったと。山水と娘の草木と陳達(チュンダー)のやりとり。ギクシャクした家族を取り持つ陳達は草木に愛しい感情を抱いているようだ。

 

『戦車の中』
村で小型機械車と会う。戦車の中から「俺」は「雪怪(シュエグウイ)」にさぐりを入れさせる。怪しい。中に人間がいる。敵対する「機械族」の手先か。どことなくジェイムズ・ティプトリー・Jr.の世界を彷彿とさせる。

 

『人間の島』
久しぶりに地球に帰還できるクック船長とクルー。知らないうちに地球は「グローバルオーバーコントロールシステム ゼウス」の管理下にあった。浦島太郎状態のクック船長たちは地球の変りように驚く。ゼウスの狙いは。

 

『乾坤と亜力』
「世界化されたAI乾坤(チェンクン)」と男の子「亜力(ヤーリー)」とのかわいらしいコミュニケーション。読んでいてほっとした。

 


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