ただ、あまりにも心の中が空虚なのだ

 

『幽霊』チョン・ヨンジュン著 浅田絵美訳を読む。

読み出したら、すぐに止まらなくなった。
ページ数もそんなにあるわけではないので
すぐに読了してしまった。

 

政府高官など全部で12人を殺した死刑囚・474番が主人公。

彼は動機や生い立ちなど一切黙秘を貫いて
挙句の果てに自ら死刑を申し出た。

男に身寄りはいないはずだが、姉という女が執拗に面会に来る。

面会を拒んでいた彼だが、その女性と面会することで
氷のような心が溶解しはじめる。

刑務官のユンは、そんな彼が気になる。

 

教育や親などの愛情を知らないで育った彼。
唯一の存在が姉だった。
でも、面会者は本当に姉なのだろうか。

 

彼は死刑を取り下げることを望むようになった。
改悛や反省の気持ちが芽生えたのか。
矯正プログラムを受けることに。

 

ところが、彼を口撃して足蹴にした刑務所長を結果、半殺しにしてしまう。
過剰防衛というか、本能なんだろう。

 

彼は生まれついて痛みを感じない「先天性無痛覚症」。

ロシア船で働いていたとき、真冬の氷の海をロシア人たちがウオカをがぶ飲みして、

寒中水泳を楽しんでいた。彼は、誰よりも長く氷の海に浸かることができた。

何せ、寒さや痛みを感じないのだから。
ついたあだ名が「幽霊」。

 

大量殺人、快楽殺人。サイコパスは心の病とされている。
当初、身の回りにいる小動物を殺害するが、
それでは我慢できなくなって最終的には人間を殺めるというが。
その流れに男もあるのだが。

 

罪の意識のない者を法で裁けるのか。という素朴な疑問が頭をもたげた。
ただ、あまりにも心の中が空虚なのだ。

 

死刑囚・474番は、痛みを感じないばかりか、感じる心もないのか。
そうは思えない、思いたくないのだが。

矯正には時間がかかる。できないかもしれない。
でも、死刑執行までに残された時間は余りにも僅かだ。

 

映画よりも演劇で見たいと、ふと思った。小劇場で。

 

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