歩いて帰ろう

須賀敦子全集〈第3巻〉 (河出文庫)

須賀敦子全集〈第3巻〉 (河出文庫)


ユルスナールの靴』須賀敦子著を読む。
プロローグの一文にしびれる。


「きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いて
いけるはずだ。そう心のどこかで思いつづけ、完璧な靴に出会わなかった
不幸をかこちながら、私はこれまで生きてきたような気がする」

 


ユルスナールの暮らした国を追体験する。
女性作家の先達としての苦悩、同性愛、
作家の資質を気づかせた父親の存在。
このあたり須賀にも共通しているかも。
ユルスナールの父親は没落貴族の典型で
きれいさっぱり資産を食い詰めてしまった。

イタリアに暮らしていた須賀が
意外にも初めて来訪するギリシャ体験記からは
青い空と白い神殿が目に浮かぶ。
『黒い廃墟』というタイトルに出てくる
ピラネージの銅版画『ローマの景観』シリーズを見てみたい。

引用。

「ことばで生きるものにとって、それによって生かされている
ことばが、身のまわりに聞こえないところで死ぬのが、なによりも
淋しいのではないかと、考えたことがある」

 

最後の著作にふさわしい出来栄え。

ユルスナールのことだが、須賀自身のことでもある。
イタリア語なのか、日本語なのか。
ユルスナール、読んでみるか。

靴つながりで。
昔、銀座のショップがリニューアルするので
セールをしていた。
ヌメ革のイタリア製のウイングチップが
手招きしていた。
底も革底。
自分で買ったのか、買ってもらったのかは失念したが。
たぶん後者だろう。
軽くて足にも割と早くなじんだ。
しかし、梅雨になって
手入れせずにほったらかしにしておいたら
残念なことにカビだらけ。
末期がんのようにカビの菌は
靴の全体に拡散していたのだろう。
諦めた。
安物買いではないが銭失いとなった。

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