衝撃の笑劇―1968年に刊行された小説の今日性

 

 

『スミヤキストQの冒険』 倉橋由美子著を読む。


スミヤキ党員Qは、密かに島にあるH感化院に潜入する。情報収集にあたる。主事と面接するが、スミヤキストであることがバレていた。工作員は院長と会う。そこで秘書兼看護士のサビヤを紹介される。絶世の美女。Qはサビヤに男性器を噛み切られたり、別の日には、肛門に異物を挿入されたり、さんざんな目に遭う。身元は、とっくにバレているのに。


感化院の院長やとてつもなく巨体の院長夫人、ドクトルなど出て来る人物がみな俗物で、過剰で。

 

「Qは、院長およびドクトルを中心とした高級管理職の地位にある「支配階級」と、院児および雑役夫からなる「被支配階級」との対立を、この感化院における主要な矛盾と考えていた」

 

階級闘争。革命を起こそうと目論むのだが。でも、ちゃっかり恋人ができたりして。

 

グロテスクで狂気さを感じる感化院の描写は、夢野久作の『ドグラ・マグラ』で描いた精神病院を思わせる。ま、最後までは読んでいないので、えらそうなことは書けないけどね。中でも文学者が書いた『ドクトルの手記』は、カタカナと漢字で記されていて、読むと、めまいが起きそう。

 

戦時下の感化院、食料などの補給も途絶えがちになって、ついには「支配階級」では食人(カニバリズム)も。

 

いやはや、なんとも。『モンティ・パイソン』やマルクス・ブラザーズのようなブラック・コメディー。カフカの寓話的世界を敷衍したものなのだろうか。残虐なシーンは、サドの『閨房哲学』を想像した。

 

マルキ(丸木)ストを揶揄したスミヤキ(炭焼き)ストかと思ったら、作者はそれを否定している。

 

「スミヤキストというのは、19世紀初頭、イタリア、フランス、スペインで活躍したという秘密結社「炭焼党」(カルボナーリ)」からとったものです」

 

いやいや。鵜呑みにはできないぞ。

 

さらにサヨクやゲバルト学生を揶揄していることを否定している。しかし、ある思想や宗教を教条的に盲信し、何の猜疑も抱かずに言いなりになってことを起こすさま、人間の哀しい性は、今読んでも、古びていない。ロシアのウクライナへの軍事侵攻、ハマスイスラエルのガザをめぐる対立などなど。

 

中学生の時、読もうとしたが手も足も出なかった。校内読書感想文で入賞して、いただいたのがトーマス・マンの『魔の山』だった。サナトリウムの生と死、愛と死を捉えたまさに匂い立つ文学だった。作者は、「著者から読者へ」で、本作の構造が、『魔の山』に似ていると。冗談か、はぐらかしか。『スミヤキストQの冒険』は、匂いじゃなくて臭い立つ文学でしょうが。


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