私は何人(なんぴと)とて束縛できる。でも、束縛はされない

 

 

『聖母』L.v.S=マゾッホ著 藤川芳朗訳を読む。

 

ヒロインは―あるいはマドンナか―異端宗派の女性教祖マルドナ。
その美貌とグラマラスな肢体はカルト宗教の広告塔として布教に光を与える。

 

マルドナを慕うのは農夫サバディル、裁判官で貴族のツェミオフォルスキ。
男性ばかりでない、彼女の世話をする美少女ニンフォドーラまでも。
マルドナは自由奔放。肉体関係を結んでも、心までは結ばない。
特定の男性のものになる気はさらさらない。
ところがサバディルとニンフォドーラがこっそりできてしまうと
内心もやもやする。

 

教祖ゆえ教義に従わない者には戒めのため、情け容赦なく制裁を喰らわす。
その非道さぶりに警察に通告される。
マルドナは逃げることなく囚われの身となり裁判にかけられる。
多分有罪で刑務所行きか。極刑か。

 

この機に新たな宗教を立ち上がれば儲かると
カロン(主要人物紹介で「大食漢の調子者」とある)が、
前から好意を抱いているフェーヴァ(主要人物紹介で「愚かで信じやすい未亡人」とある)をそそのかす。フェーヴァはその気になってニワカ女性教祖を名乗る。
それでも結構信者がつく。
カロンって狂言回しの役で、『西遊記』に出て来る猪八戒みたいなヤツ。

 

裁判官で貴族のツェミオフォルスキ。シブいイケおじは、マルドナに魂を射抜かれる。秒殺。結局、無罪放免となる。

 

そこから始まる、マルドナのリベンジ。

彼女のハートを射止めんがために、そしてカルト宗教のトップの座を射止めんがために、抗争、仁義なき戦いとなる。

 

結局はマルドナの魔力に勝てず、ひれ伏す。ニンフォドーラは寝返ってマルドナのもとに。サバディルは十字架磔(はりつけ)の刑に。死を懇願するサバディル。マルドナが彼の心臓に釘を打ってとどめを刺す。ドラキュラでもないのに。

 

罰がスタイリッシュなSMプレイを思わせるあたりに、マゾッホらしさがある。

私は何人(なんぴと)とて束縛できる。でも、束縛はされない。教祖だから


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