レンズが撮るものは、すべてがリアルではない、しかし…

 

暗闇にレンズ (単行本)

暗闇にレンズ (単行本)

 

 『暗闇にレンズ』高山羽根子著を読む。

 

SideAではスマートフォンで撮影した映像を楽しむいまどきの女子高生たちが主人公。

 

SideBは映写機が日本に来た1896年から始まる。映像や映画の歴史をある家族、曾祖母、祖母、母、娘、女性4代を通しての物語。曾祖母・照はパリの撮影スタジオで働く。亡くなった幼なじみの娘・未知江を養子にする。未知江は後に日本で記録映画制作の仕事に就き、世界中を撮影する。しかし、第二次世界大戦が起こる。羽ばたけなくなった未知江。彼女には双子の子がいた。病弱な娘・ひかりだけをドイツから引き取る。遺伝だろうか、ひかりは絵に特異な才能があり、大戦後、世界的なアニメーションスタジオで働く。

 

SideAの女子高生は、そのひかりの子。自分たちが撮影した映像をインターネットにアップするといい意味でも悪い意味でも注目される。しまいには都市伝説のように尾ひれがついて流布する。SideA、SideBが入れ子になっていて終盤で見事に繋がっていく。

 

この本は映像に関わってきた女性4代の物語と映像・映画史としても読める。

 

リュミエール兄弟が発明した映画。日本の映画の黎明期、映画は日本では娯楽作品で、ヨーロッパのようにドキュメンタリー映画は重んじられていなかったことを知る。日本映画に当初女優が存在しなかったことは知っていた。女形などが演じていたようだ。男社会に風穴を開ける女性たちの活躍は読んでいて小気味いい。平坦な人生ではなかったが、自ら降りることはなかった。

 

SideBで映像兵器の研究が出てくる。実際にはなかったようだが、映画はプロパガンダとして有効でソ連などの共産国ナチス・ドイツでいわば国威発揚などマインドコントールの手立てとして活用された。一方で戦争や天災など命がけで撮った映像は見るものに悲惨さや反戦などの気持ちを引き起こす力がある。リアルにもフェイクにもなる映像。そう思うと怖さを感じる。

 

レンズを通して撮られたさまざまな映像。そこには撮る人の意志がある。正義もあるが悪意もある。あちこちにはりめぐらされている監視カメラ。それにも功罪がある。

 

『光ハ偽、即チ戯』『又、光、祈』という一文が出て来る。作者はこのことを言いたかったのか。

 

女性4代およそ120年もの映像や映画の歴史をレンズ越しに捉えた作品。
LIGHTS、CAMERA 、ACTION!という章のタイトルがセンスがバツグン。


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