『言語の七番目の機能』ローラン・ビネ著 高橋啓訳を読む。
ロラン・バルトはミッテランとの会食後、自動車事故に遭遇する。
病院に向かう途中、彼が持っていた『言語の七番目の機能』について書かれた文書が無くなる。
ロシア出身の言語学者、ロマン・ヤコブソンは言語には「表出、他動、描写、詩的機能、交話、メタ言語」の六つの機能があると述べた。さらに「七番目の機能が」あるのではと。それは「「魔術的もしくは呪術的機能」で呼ばれるメカニズム」に潜んでいるのではないかと。
亡くなったバルト。交通事故ではなく殺人だった。
犯人と消えた文書を探すために、バイヤール警視と記号学者シモン・エルゾグが組む。
バイヤール警視は関連する言語学や哲学書を一応読むが、ちんぷんかんぷん。
ま、バディものではあるが、当時のフランスで高名な哲学者、言語学者、思想家などが
オールスターで登場する。往年の東映の人気スター総出演の正月映画「忠臣蔵」のように。
ジャック・デリダ、ミシェル・フーコー、ジル・ドゥルーズ、ジュリア・クリステヴァ&フィリップ・ソレルス、ジャンポール・サルトル、ルイ・アルチュセール、ウンベルト・エーコなどなど。
彼らは仲良しだったり、反目し合っていたり。たとえば、ゲイであることをカミングアウトしていたミシェル・フーコーは、ゲイを隠蔽していたバルトの立ち位置に批判的だったとか。
名前だけも知っていると彼らのアーカイブ映像を見る気分で読むことができる。
二人の捜査はパリから始まりボローニャ、コーネル大学のあるイサカへ。次はヴェネツィアからパリ。大団円の地はナポリ。
迷走気味に進む捜査。事件の核心に近づくようで近づけない。
危険な目にも遭うが、最後にシモンは悲惨な体験をする。
「言語の七番目の機能」と命名された文書は、誰が所持しているのか。
正体不明の秘密組織「ロゴス・クラブ」。ロゴスで殴り合いする。ネーミングが「ファイト・クラブ」に似ていると思ったら、そうらしいことを訳者あとがきで知る。
眉間にしわを寄せて読んでもいいが、
おもちゃ箱をひっくり返したようなドタバタミステリーとしても読める。
ぼくは、断然、後者。
余談。バイヤール警視は料理の名人だった。
『ロラン・バルト―言語を愛し恐れつづけた批評家』石川美子著に
バルトの本当の死因は、交通事故ではなく、院内感染だったことが記されている。