「人外(にんがい)」は、あなたの隣にいる、いてほしい

 
 
人外

人外

 

 

『人外(にんがい)』を読む。
 
「人外(にんがい)」とは、人でないもの。
怪物、幽霊ー、異星人などなど。
人でなしというが、人でなしは人間だし。
 
ある生命体が生まれる。
そして冒険旅行に出る。そんな大げさじゃないな。
川の水が序上流から下流へ流れていく、そんな感じ。
 
彼は生まれつき一人ぼっち。孤独は嫌いではなかったが、
時折、寂しさも感じた。
 
ぼくには彼が影もしくは3DCGでこしらえた透明体に思える。
 
「人外(にんがい)」の視点から見る世界。
自然、人工。
賑わっている街、寂れた街。
地上の街、地下の街。
住んでいる世界や社会がさかしまになるとこう見えるのか。
 
彼が見える人もいる。
霊感が強い人が霊が見えるように。
老人には見える。病人もそうかも。
「病院長」には見えた。
猫や犬にも見えるらしい。
 
「取り壊された図書館司書」の女性とのシーン。
 

「人外もごろんとからだをよこたえ、だんだん濃くなってゆく闇のかなたに目をこらし、あたりを見まわしながら、平面だ、やっぱり平面なんだな、とかんがえていた。すべてが平面になってゆく、都市もコトバも、ニンゲンの文明それじたいも、あらがいようもなく、とかんがえ、残酷な
よろこびがからだのそこからひそかに湧きあがってくるのを感じた」

 フラット化する社会。人間じゃないから、高みの見物と決め込んで

ほくそ笑む。
 
可視化された彼は、どんな姿をしているのだろうか。
 
「人外(にんがい)」は、用心深いが時には大胆な行動にも出る。
超人ではないようなのでドジも踏む。
 
タイトルからラブクラフトのようなおどろおどろしい怪物が
出て来る小説かと思ったが、違った。
 
ある「人外(にんがい)」の「発端」から「終末」までの叙事詩
伝説のような味わい。
小説家であり詩人でもある作者ならではの豊饒な日本語。

「人外(にんがい)」は、あなたやぼくの隣にいる。いてほしい。
でも、なかなか気がつかない。
 

貴婦人か貴腐人か

 

毛皮を着たヴィーナス (河出文庫)

毛皮を着たヴィーナス (河出文庫)

 

 『毛皮を着たヴィーナス』L・ザッヘル・マゾッホ著 種村季弘訳を読んだ。

率直な感想は思った以上に面白かった。
オペラの原作を読んでいるような感覚。
古典というと「古くさい」と思われがちだが、
なかなかどうして一種の恋愛ドラマのパターンを踏襲している。
訳者のファンではあったが。

ぼくもマゾヒズムマゾッホの名前に由来していることは知っていたが、
読んだことはなかった。
 
主人公の青年は子どもの時、お仕置きでいきなり鞭で打たれる。
苦痛もあったが、歓喜で身もだえした。
毛皮フェチの青年は、毛皮をまとった美しい「貴婦人」に魂を奪われる。

うら若き未亡人と「奴隷契約」を結び、下僕となる。
貴婦人に蹴られたり、鞭でしばかれる。
傷みよりも喜びが電流のように流れる。
飴と鞭で青年は翻弄される。
飴は不要か。鞭と鞭でもOKかも。
で、そこにギリシャ人の美しい若者が現れる。
貴婦人は惚れてしまう。
三角関係にもならないこじれた関係。青年は嫉妬で身もだえする。
最後の場面で…。これ以上ネタバレできない。

これも、やはり恋愛ドラマのパターンで、様式美っちゃあ様式美。
 
引用。
 

「私の奴隷になりたいのでしょう?」
「愛に平等はありません」私はうやうやしい厳粛さをこめてそう答えた、
「支配するか征服されるか、二つに一つの選択を迫られれば、即座に美しい女の奴隷になる方が私には魅力的に思えます。といって、しみったれた泣き言で男をとりなそうとするのではなくて、平静に、さめた態度で、いや厳格ですらある態度で男を支配するすべを心得た女が、どこを探せば見つかるでしょう?」

 

 
このように、ところどころに名言が埋もれている。
 

表を追加

 

オカルティズム 非理性のヨーロッパ (講談社選書メチエ)

オカルティズム 非理性のヨーロッパ (講談社選書メチエ)

  • 作者:大野 英士
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/12/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

引き続き、『オカルティズム 非理性のヨーロッパ』大野英士著から
参考になるので表「交霊術・心霊研究に関する主な事象」を引用。
 
表2 交霊術・心霊研究に関する主な事象
 
<欧米>
 
●1848年3月、ハイズヴィル事件。アメリカ、ニューヨーク州アーケーディア近郊の小村ハイズヴィルで起こったポルターガイスト事象。ジョン・フォックス一家
●1852年、心霊術はイギリス、ドイツ、フランスへと拡大。各地でターニング・テーブルを囲んでの降霊会が開かれる。
1863年、フランスで降霊会が流行。第二帝政初期に皇帝ルイ・ナポレオンのチュイリュリー宮殿で降霊会。第二帝政成立後、ジャージー島に亡命していたヴィクトル・ユゴー、1853-55年に霊媒デルフィーヌ・ド・ジラルダンの導きにより降霊会を行う。
●1860-90年、傑出霊媒の続出。フローレンス・クック、ステイドン・モーゼス、ヘンリー・スレ―ド、ダニエル・ダングラス・ホームなど。
ダーウィンの『種の起源』(1859)、マルクス資本論』(1867)など、唯物論が盛んになる中、心霊術は「霊」の不滅を信じるキリスト教(特にプロテスタント)の一つの武器となる。
1861年、ウィリアム・H・マムラ―により初の心霊写真。
●1872年、ウィリアム・クルックス、フローレンス・クックの霊能調査。
●1882年、ヘンリー・シジウィックらによりイギリスに心霊研究協会創設。以後、心霊現象を科学的な立場から研究する傾向(心霊科学)が強まる。
第一次世界大戦の影響で心霊術に再び脚光があたる。1918年、『シャーロック・ホームズ』シリーズのコナン・ドイル(1859-1930)、第一次世界大戦で息子が死んだことを契機に心霊研究へ。
●1934年、アメリカ、デューク大学のジョゼフ・バンクス・ラインにより『超感覚的知覚』刊行。超心理学起こる(ライン革命)。
 
<日本>
 
1881年東京大学心理学教授外山正一、東京帝国大学で初めて「催眠術」を紹介。
●1911年、東京帝国大学助教福来友吉、霊能者長尾郁子を調査し、「念写」を発見。
●長尾郁子事件(1913年、「千里眼事件」)により、福来友吉東京帝国大学を「追放」
(文官分限令により休暇を命じられ、2年後に退官)される。鈴木光司のホラー小説、およびそれを原作とした映画『リング』のモデル。
●1917年、福来友吉三田光一を知り、念写実験再開するもアカデミーからは無視される。

 

確か、フロイトは女性のヒステリー患者に対して催眠術による療法を試みた。
それが精神分析へとつながったんだよね。
大昔、大学の講義で教わったが、うろ覚え。
 
コックリさんもそうか。交霊術。

近代オカルティズムを串刺し

 

オカルティズム 非理性のヨーロッパ (講談社選書メチエ)

オカルティズム 非理性のヨーロッパ (講談社選書メチエ)

  • 作者:大野 英士
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/12/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

『オカルティズム 非理性のヨーロッパ』大野英士著を読む。
 
オカルトを「古代から現代まで」串刺しにした「オカルティズム思想史」。
17世紀フランス。「魔女狩りなど悪魔の時代が終焉する」。
「近代」はそこから始まったと作者は述べている。
 
ミシェル・フーコーの「エピステーメー」を引きながら、さらに。
 

「我々が問題とする「オカルティズム」は、―一部略―18世紀末から19世紀初頭、フランス革命がその結果にすぎないと見なせるような「エピステーメーの転換」―一部略―を経ながらも、廃れることはなかった。また、近代のめざましい実証科学の発展にもかかわらず、あるいはそれと相即的に、非理性的なもの、秘教的なものへのある特有なあり方―近代オカルティズム―として復活し、それが現代にまで及んでいるということなのだ。魔術が力を失ったにもかかわらず、オカルティズムが成立する!」

 

気になる表があったので、まんま引用する。
 
表1 様々な超常現象
 
[精神にかかわるもの]
透視(千里眼)、異常な聴覚能力、予言、水晶占い、超能力による治療(ヒーリング)、サイコメトリー(事物からその持ち主に関する情報を読み取る)、トランス(深い催眠状態で霊と交信し、霊に導かれる)、自動筆記・描画
 
[物理的な超能力]
エクトプラズム、テレキネシス(念力)、サイコキネシス(マインド・コントロールによる物体の移動・浮遊)、スピリット・ラップス(様々な叩音の発生)、アポール(霊界よりこの世へ物体を移動させ表出させる)、空中浮遊、霊の物質化、声(霊媒の直接・間接に発する声、かすかな音)、霊光(霊媒から発するあらゆる色・形をした光)、微風(冷たい、暖かい、匂いを伴うなど、霊媒により発生する空気の移動)、楽器の自動演奏、霊による歌唱、テーブルの移動、ウィージャ・ボード(テーブル・ターニング同様の霊との交信)、霊香(花や金属、香水、悪臭など霊現象に伴う匂い)、心霊写真(念写)、電話・ラジオ・テレビ・テープレコーダーなど近代的な機械を通じた霊からのメッセージ
(参考:トッド・J・レナード 『別世界への語りかけ』iUniverse,inc,2005)
 

 

あらら、ゴーストものやホラーもののキーワードがまとめられている。
いままで読んだものや見たものが浮かぶ。
これらにキャラクターの設定、舞台(古都、ニュータウン、港町、鉱山都市など)を選んでAIにお願いすれば、結構よいゴーストものやホラーものが一丁上がりとなるのかな。
 
「終章 神なき時代のオカルティズム」がもの足りない。
と思ったら、諸事情により。だった。
泣く泣く割愛した「オカルティズムをめぐるフロイトユングの関係」や
「ネルヴァル、バルザックボードレールランボーマラルメシュルレアリストなど近代文学者のオカルティズムに対する態度」。
読みたい、読みたい。ぜひ、続篇を願う。

「虎は死んで皮を残す」。マゾッホは死んでマゾを残す 『ザッヘル=マゾッホ紹介』の紹介

 

ザッヘル=マゾッホ紹介 (河出文庫)

ザッヘル=マゾッホ紹介 (河出文庫)

 

 

『執念深い貧乏性』栗原康著で取り上げられていた
ザッヘル=マゾッホ紹介』ジル・ドゥルーズ著 堀千晶訳を読む。
晶文社から出ていた『マゾッホとサド』蓮実重彦訳の「新訳」。
気にはなっていたが読んではいなかった。
ついでにマゾッホの代表作『毛皮を着たヴィーナス』ザッヘル=マゾッホ著 種村季弘訳を併読。
ドゥルーズの難解さに比べて『毛皮を着たヴィーナス』は、すいすい読める。
 
さて『ザッヘル=マゾッホ紹介』だが。
サディズムはS、マゾヒズムはMという略称で使われている。
「私、どSだから」とか「ぼく根っからのどM」とか。
サディズムの対語がマゾヒズムだと思われているが、
それは違うとドゥルーズは述べる。
しかし、ドゥルーズ、何冊読んでも難解。難解だけど、その省察が脳内にうすく見えてくる。

フェティシズムは、本質的にマゾヒズムに帰属する」

 作者はフロイトを引きながらこう述べている。

 

「フェティッシュとは、女性のファルスのイマーゴないし代替物である。すなわち、女性にペニスが欠けているということを、私たちが否認する手段なのだ」

 匂いフェチ、脚フェチ。ストッキングフェチ、毛皮フェチ、鎖骨フェチ…。

 

マゾヒズムにおける拷問者の女性がサディストでありえないのは、まさしくかのじょがマゾヒズムのうちにいるから」

 

単純な図式ではないらしい。
 

「主体としてのマゾヒスト、マゾヒズムのある種の「本質」を必要としているのであり、それはじぶん自身の主体的なマゾヒズムを断念する女性の本性のなかで実現される」

 

確かに『毛皮を着たヴィーナス』を読むと貴婦人の思いや行動と一致する気がする。
共依存の一種なのだろうか。
 
サディズムマゾヒズムの違いを 引用-1。
 

サディズムは否定的なものから否定へと向かう。すなわち、たえず反復される部分的な破壊としての否定的なものから、理性の全体的な理念としての否定へと向かうのである」

 否定は問答無用で一刀両断。大嫌い!

マゾヒズムは否定から宙吊りへと向かう。すなわち、超自我の圧力から解放される過程としての否認から、理想を具体化するものとして宙吊りへ向うのである。否認とは、ファルスの権利と所有を、口唇的な母へと転移させる質的過程である」

 否認は、大嫌いかも!

サディズムマゾヒズムはたがいに異なる構造であり、互換可能な機能ではない。ようするに、発生論的な派生ではなく、構造的な分断という用語によって、サディズムマゾヒズムはその本性をあらわすのだ」

 AndroidiPhoneみたいにOSが違うってことか。なのに、一緒くたにしている。

 
サディズムマゾヒズムの違いを 引用-2。

マゾヒズムとは、いかにして、だれによって超自我が破壊されるのか、そしてこの破壊からなにが生まれるのかを語る物語である」

 どういうことか。訳者あとがきより引用。

 

「いつ振り下ろされるやもしれぬ宙吊りにされた鞭による苦痛を予期して待つ瞬間をこそ味わいおののくこと、苦痛が条件づける快の到来をたえず先送りにし、その引き延ばし状態を生きることで、そこから別種の快を呼び寄せること、そのために苦痛を与えてくれるよう女性を説得し、契約を結ぶこと」

 

 
ああ読みかけの『毛皮を着たヴィーナス』に出て来る青年(ヘンタイよいこ)だ。

サディズムも一個の物語である。この物語が語るのは、まったく別の文脈と別の闘いのなかで、いかにして自我がたたかれ、追放されるかである」

 どういうことか。訳者あとがきより引用。

 

「暴力的で猥雑な描写を急速度で積み重ねること、暴力を加速させ、それをおびただしい数の犠牲者に向け投射し、冷淡に実行すること、見せかけの対話を嘲笑う論証を長々と繰り広げ、アナーキーな制度のもとで絶対的な命令を下すこと、夢を破壊すること」

 マルキ・ド・サドの『閨房哲学』。長口舌に辟易した。

ザッヘル=マゾッホ紹介』よりも『ザッヘル=マゾッホ プレゼンテーション』と直訳のままの方が、狙いが伝わるのでは。

猫はエサだけ食べてすぐ帰っていく

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姿は見かけていた。
朝刊を取りにドアを開けるといたこともある。
用心深いので接近遭遇を試みると
全速力で逃げていく。
 
妻が試しに庭先に亡き猫用のカリカリエサを置いたら、
平らげた。
うちの猫は食が細かった。
 
それから朝とお昼と3時に来るようになった。
近所のペット葬儀寺の地域猫だと思うのだが、
食欲が旺盛なので違うかも。
 
鳴き声を聞いたことはない。
催促は網戸を引っ掻いて。
 
隣の家との塀の上は
猫のルートになっているらしくて
いろんな猫が通っていく。
 
庭先で猫専用ファーストショップを開いたら、
繁盛するかな。
 
スマホ決済は対応不可ニャンダー。
ニャンともシブい顔。

でも食事のお礼がネズミのシッポ円やモグラドル、カマドウマ元だったら
困るな。
 
あ、引っ掻く音がする。
風だった。
 
 

2020年1月12日の5首

 
坊主 BOSEで聴く セロニアス・モンク 坊主が僧正(モンク)、文句あっか
 
当店では セルフレジ セレブレジ セフレレジ をご用意しました
 
笑ってるあなたの写真を 切り刻む ゴミ箱から そっとジグソーパズルに

洗濯機のフタ 開けておかずに 叱られ 便器のフタ 開けっぱなしで 叱られ

『毛皮を着たヴィーナス』が愛読書のSM嬢 小さなささくれに 眉をひそめる