おどるでく、踊る木偶、オドラデク

 

 

『おどるでく-猫又伝奇集』室井光広著を読む。

 

『猫又拾遺』は作者の出身地である南会津を「猫又」と名付け、不可思議な話を集めた短篇集。宮沢賢治岩手県を「イーハトーボ」と命名したが、こちらは猫又。メルヘンチックではなく妖怪チック、民俗学チックで今様昔話の趣き。閻連科とか深沢七郎あたりを思い出す。『遠野物語』とかも。「伝奇集」は、ボルヘスへのリスペクトを込めてか。

 

『おどるでく』芥川賞受賞作品。「踊る木偶(でく)」はすぐにわかったが、そこにカフカの「オドラデク」が重なっているとは。オドラデクはカフカの短編小説『父の気がかり』に出てくる珍妙な生き物。茅葺き屋根の生家の二階で偶然段ボールに入った大量の日記を見つける「私」。書いたのは「仮名書露文」。しかもロシア語で書かれている。ロシア語を多少齧ったことのあるは、日記を読み解く。なぜロシア語で。啄木の「ローマ字日記」のようなものかと思うのだが。仮名書露文とは小学校からの知り合い。家業は元々毒消屋でいまは材木屋。一事が万事、言語へのこだわり方がすごい。としか書きようがない。

 

小説の他にインタビューや川口好美による解説もあり、室井文学の理解の一助になる。


「―あの方言はすべて実在するんですか?―略―
 室井 半分以上はつくったものです。
 ――略―「おどるでく」という方言はあるんですか?
 室井 あれもないです。ただ、根も葉もないわけではなくて、子供の頃、爺さんがしゃべってたなんだかわからない言葉のかけらとか、おふくろがなにかの
表紙にぴゅーっと口に出した言葉とかをなぞってつくっているんです。ぼくとしては、なんていうか、そういう幽霊みたいな言葉としてとらえていて、ジョイス語と
にているかもしれません」(「室井光広氏と語る」聞き手・加藤弘一より)

 

多和田葉子の巻末エッセイで作者の人柄を知る。好エッセイ。

 

言葉の迷宮から抜け出るのは容易なこっちゃない。つーか、抜け出たくない。

 

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