奇想天外、荒唐無稽な高層タワーマンション国家

タワー

『タワー』ペ・ミョンフン著 斎藤真理子訳を読む。

 

舞台は674階建巨大タワーマンションビーンスターク」。『ジャックと豆の木』のあの一夜で天にまで伸びた豆の木に由来したネーミング。今様バベルの塔。しかも、そこは国家なのだ。タワマン国家。22階に国境がある。その全貌は謎なんだけど、タワマン同様に上の階に行けば行くほど価格が高い。上層階はお金持ち。投機目的で購入する人も。下層階は庶民対象。つっても高収入でないと買えないよね。下層階にはもう一つ軍隊が置かれている。何やらここを攻撃してくるらしい。

 

タワマンだけに雲をつかむような話が続く。最初の『東方の三博士-犬入りバージョン-』で、やられてしまう。高額舶来ウイスキーは貨幣代わりに流通する。その説を裏付けるため、チョン教授以下三人の博士はウイスキーICタグをつけて流れを見る。すると、ある部屋でウイスキーは滞っている。その部屋は俳優Pの部屋だった。俳優といっても犬なんだけど。猫に小判、犬に高級ウイスキー。聖なる夜、殺人事件が起こる。21階の非武装中立地帯を越え逃げる三博士。

 

『自然礼讃』

ここでは、「低所恐怖症」の作家が出て来る。ぼくは、高所恐怖症なんだけど、タワマン上層階育ちは、低いところがダメらしい。どう考えても自然とはほど遠い環境。だから、自然を礼賛するのか。

 

タクラマカン配達事故』
ビーンスターク」には住民による配達システムがある。エレベーターそばの階数表示された青いポストに郵便物を入れておくと、その階数に行く人が運んでポストに入れてくれる。ま、ボランティアの一種。「ビーンスターク」は国家なので軍隊がある。「海軍下請けの民間防衛会社」に傭兵パイロットとして転職したキム・ミンソ。タクラマカン砂漠で行方不明となる。ネットで呼びかけると、世界中のたくさんの人が発見に協力する。彼は見つかるのだろうか。


『エレベーター機動演習』
ビーンスターク」では、エレベーターで物資を運ぶ「垂直運送組合」と主に人力で物資を運ぶ「水平運送組合」がある。かつては父親がこのタワマンに広大な地所を持っていた。しかし、宇宙ステーション計画に投資、失敗。息子の私には一部屋だけを相続した。持ち金も乏しくなって暖房費も払えず、隣からの暖気にすがって、やっとの思いで公務員となることができた。陸軍参謀部動員計画課に配属となる。かつてのお隣さんの彼女との因縁。彼女は水平主義者層出身。プロレタリアアート。わたしは垂直主義者層。プチブルジョア。彼女の仕組んだ階級闘争とは。

 

『広場の阿弥陀仏
ビーンスタークとコスモマフィアが戦争中。「ビーンスターク」の警備会社に就職できた男。これまで仕事が長続きせず、妻や義妹からの視線は冷たい。反戦デモを静圧するのが主な任務。騎馬警察では人数的に足りなくなって、ついにインド象を導入する。最終兵器?彼は象の世話係になる。名前はアミタブ。ふだんは仏のように穏やかなおとなしいアミタブが、突然、暴れ出して、ビーンスタークから脱出してしまう、なぜ。

 

『内面表出演技にたけた俳優Pのいかれたインタビュー』
名優で高収入ゆえ「ビーンスターク」高層階住まい。いかに鋭い質問をしても、俳優Pは犬なんだ。これは、いくらでもパスティーシュができる。コントで見てみたい。

SFというよりも奇想小説、寓話っぽい。韓国のイタロ・カルヴィーノ?


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