シャアワセ

噂の娘 (講談社文庫)

噂の娘 (講談社文庫)


仕事本を読みながら息抜きに
スタア誕生金井美恵子著を読んでいる。
シャアとシャアを合わせてシャアワセ。
坊やだからさ。
姉妹作『噂の娘』の世界、アゲイン。
ってことで昔書いたレビューを
honto(旧ビーケーワン)から。
直リンクが貼れないのでまんま引用。

『噂の娘』金井美恵子著のレビュー。

テキストを読む快楽。もしくは、二度と来ない夏の日。


妻には小学校からの友人がいる。女3人寄るとなんとかで、とたんに、思い出話に花が咲く。
劣等生だったのに努力して立派になった者、
家業を継いだが、時代の波に乗りきれず店をたたんだ者、
担任の先生の行方から議員になった町内のガキ大将、同級生の兄弟・姉妹のこと、
今はもうすっかりさびれた商店街など、それはもうかしましいこと、この上ない。

 本書もページからそんなにぎやかな声が聞こえてくる。
ともかく饒舌。ともかくワンセンテンスが長い。
本書を朗読しようとしたら、ナレーターは窒息してしまうに違いないほどだ。

 舞台は昭和20年代中頃の、とある地方都市。
テレビはまだなく、映画が娯楽の王様だった頃の話である。
小学生の女の子とその弟が、母の知り合いのモナミ美容院に預けられる、
暑い夏のごく短い期間の、長い長い話。美容院の三姉妹ほか登場人物達が
揃いも揃って喋る、喋る。
作者は、さまざまなシーンを、言葉で映像のように目まぐるしく書き綴る。
商品名、店名など名詞の氾濫。だが、読むにつれ、
その商店街の全貌がおぼろげながら見え出してくる。

 主人公の女の子が目を真ん丸に見開いて、耳なんかもダンボのように大きくなって大人の会話を聞いている。
母親のこと、父親のこと、祖父母のことから東西の映画スターや近所のゴシップ。
お姉さんたちのお化粧道具や流行のヘアスタイルやファッションをじっと観察しているのだろう。
少女は愛読しているバーネットの『秘密の花園』のように、日常生活の中に隠されていることを探り、
謎に巻き込まれることに悦に入っているようだ。

 子どもの時分、親戚や祖母の家へ泊りに行く時の胸が躍る気持ちや、
お客様扱いしてもらえる居心地の良さなどをふと、思い出した。
しかし、単なるノスタルジックな物語で終わっていないところに、
作者の言葉を紡ぎ出す行為の年季みたいなものを感じる。
昔、新潮文庫で読んだ処女作『愛の生活』以来の文学少女スピリチュアリティ
健在といったとこだろうか。書かずにはいられなかった作品なのだろう、勝手な推測だが。

 昔の日本映画、今なら『冬冬の夏休み』や『童年往時』などといった
ホウ・シャオエン監督あたりの映画と妙にシンクロしている。

 最初は読むのが辛かった文体も、じきに苦にならなくなり、
少女と同じように耳を大きくして読んでいた。
テキストを読む快楽を、たっぷりと味わせてくれる。みずみずしい読後感が残った。

 装丁家である実姉の小学生時代の絵と確か帝人パビリオのロゴなどで
一世を風靡した佐野繁次郎風タイトルも作品の世界を如実に表わしており、申し分ないと思う。

 例によってタイトルは、また映画から引用したのかと思って
Googleで検索してみたら、成瀬巳喜男監督の映画からでした。

 

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