奈落の底までI LOVE YOU !

 

 

昔、書いた映画評。

 

ほんとうは、映画は、映画館の大きなスクリーンで見るのがいちばんなのだが、
おウチで見るビデオ、これは、これで、小市民的幸せなのではなかろうか。
などと、自己弁護しながら、紹介するのは、『浮雲』。

 

第二次世界大戦中、フランス領インドシナで知り合った男と女の話。
男は、農林省の官吏で、女はその秘書。
男は単身赴任で、何時の間にか赴任先で彼女と火遊びをしてしまう。

敗戦後、二人の関係は切れるが、妻子ある男も、敗戦後の新体制に
うまく乗ることができずにいる。


女は、GIのオンリー(妾)になったりと、全篇、グズグズのドロドロ。
またヨリを戻しては、別れる、の繰り返し。
一体、何本の焼けぼっくいに火がついたことだろう。

 

男を演じているのは、二枚目俳優・森雅之
父君が、文豪有島武郎という毛並みの良さは、知識はあるが、仕事はできない。
良識派を気取ったエゴイスト。そんなダラシナイ色男役をさせたら、天下一品。
本作でも、ヤサ男のインテリゲンチャ的いやらしさをぷんぷん匂わせている。

 

一方、女を演じているのは、高峰秀子。凛とした気丈な美貌、
しかし、一度惚れた男には、結局、未練を捨て去ることができないというヒロインの役を好演している。

 

二人は、伊香保温泉へ旅行するが、そこの小料理屋の若妻役が、
若かりし、岡田茉莉子
なんともいえず、おきゃんで可憐。結局、森雅之扮する男と
駆け落ちしてしまうのだが。

 

戦後の退廃した空気が、どこなくいまと似ている。

 

当り前なんだけど、映画は、俳優、キャスティングが大きいと思う。
「いいや脚本(ほん)さ!」と、黒澤明みたいなことを
のたまわれる御仁もおられるが、
この作品に関しては、森雅之高峰秀子でしょう。


リメークするなら、誰がいい?ぼくが敬愛してやまない岩松了
浮雲』を舞台化した時は、
小林薫樋口可南子だったけど、小林薫ねぇ。
好きな上手な役者だけど、どうもねえ。

 

ラストの雨の屋久島。ここが、いい。メロメロになる。
渡辺淳一先生の『失楽園』の最後は、笑ってしまったが…。
オープンセットでこしらえた屋久島の素晴らしさも称賛しておかねば。

 

[監督]成瀬巳喜男[脚本]水木洋子[原作]林芙美子 (1955年製作)

 

人気blogランキング

ぼく、ブロッコリー。通称、コリー。お払い箱のジョッキー(騎手)ロボット

 

 


『千個の青』チョン・ソンラン著 カン・バンファ訳を読む。

 

ぼく、ブロッコリー。通称、コリー。元々ぼくはヒューマノイド(人型ロボット)。ジョッキー(騎手)ロボットとして競走馬トゥデイとレースに出ていた。ところが、落馬。壊れてお払い箱となった。

 

それを母親に内緒でこっそりお小遣いで買い取ってレストア、改造してくれたのがヨンジュ。彼女はロボティクスに天賦の才がある。その姉のウネ。ポリオが原因で車椅子生活をしている。


なぜ内緒だったのか、聞いてくれる?姉妹の母親がボギョン。彼女は若い頃は俳優として映画に出演。注目を浴びていた。ボギョンが地下のスタジオにいたとき、火事に遭う。消防士の勇気ある行為で救出される。しかし、全身に大火傷を負う。彼女と消防士は恋に落ち、結婚。姉妹が生まれる。まもなく夫は亡くなる。

 

女優の夢を断念してボギョンは銀行に勤務する。銀行業務を人間に替わってヒューマノイド(人型ロボット)が行うことになり、リストラされる。料理上手の彼女は食堂を開くが、ロボットにきっと強い恨みを抱いているだろうとヨンジュたちは思い、ぼくを隠していた。


相棒のトゥデイーが「関節をすりへらして」で全力で走れなくなり、処分されることを知る。二日後に安楽死。ぼくはなんとか阻止させたい。そしてもう一度、トゥデイをレースに出させたい。「千個の単語しか知らない」ぼくは、懸命に母親や姉妹、トゥデイの担当獣医などを説得する。


ぼくの無謀、無垢とも思える行動が、それまでの母娘や姉妹のわだかまりを吹き飛ばす。「止まった時間が」再び、動き出す。正攻法では無理なのでちょいと頭を使った手口で、トゥデイはレースに出場できる。奇跡は起きるのか。


ヨンジュに修理されたぼくは、なんだか意識が芽生えたような気がするのだが。量産型でのぼくのバグが何やら起因しているかも。

 

人、ヒューマノイド、動物(競走馬)。それぞれの命や生涯をテーマにした作品。ま、SF風味ではあるが、読んでいてしんみり、じんわり、ふんわりとしてくる。『千個の青』の「青」とは、「青春(あおはる)」の「青」なのだろうか。

 

最後に再び、ぼくは念願のトゥデイに乗ることができた。風を切って走る。でも、またもや落馬。薄れいく意識。でも、きっとヨンジュがうまいこと修理してくれるだろう。

 

人気blogランキング

思った以上の出来栄えと上から目線で称賛したいミステリ&奇譚集

 

 

『幽霊紳士/異常物語-柴田錬三郎ミステリ集-』柴田錬三郎著を読む。

 

読んだことはないが『眠狂四郎』の作者が書いた本格ミステリ。さほど期待しないで読んだら、当たり!だった。柴錬先生、ミステリ好きでもあったのだ。

 

『幽霊紳士』12話は、大詰めにどこからともなく紳士の幽霊があらわれて事件の真相や謎を解明する話。元ネタはたぶんアガサ・クリスティーの『謎のクィン氏』あたりだと思うのだが。クィン氏は幽霊のような人間だが、こちらは本物の幽霊。各話ともキャラクターが重なって話の展開に奥行きを与えている。こんな感じ。

 

『女社長が心中した』
「警視庁刑事部捜査第一課・刑事杉戸三郎」は、やり手の女性社長・品口将江と青年の心中事件の捜査に当たる。会社の経営が思わしくなって心中した。で、落着するはずが、灰色の紳士が登場して事件をひっくり返す。実は女性秘書らが心中に見せかけた周到に練られた殺人事件だった。


『老優が自殺した』
私立探偵・猪木敬吉が杉戸三郎を訪れる。猪木は警視庁OB。有名な新劇俳優・村崎史郎が亡くなった。事故か、事件か。猪木は村崎の「日常捜査を依頼」されていた。村崎は病気で俳優を続けることが困難になり、指導者になっていた。手塩にかけた女性が女優となって開花して、彼の元を離れる。新たな恋人もできた。新たな事実を猪木にさらす灰色の紳士。

 

『異常物語』8話は、さまざまな奇妙な味わいが存分に楽しめる奇譚集。切り口が古びていなくてびっくりした。こんな感じ。

 

『生きていた独裁者』
「日本人留学生椿次郎」は、パリで夜の女性・ジャンヌと出会う。ジャンヌの方がかなり年上。客の一人がヒットラーだと聞かされる。ヒトラーが生存していた?半信半疑の椿。やはりフェイクだった。最後のどんでん返しが見事。

 

『名探偵誕生』
「名探偵シャーロック・ホームズ」のデビュー作は『緋色の研究』とされているが、実はそれよりも前に書かれた未発表のノートがあるという。『役者の独語』というタイトルの作品が紹介される、このノートは「7000ドル」という高値でアメリカの愛好家に。ところが。

 

『午前零時の殺人』
ヒッチコック監督がパリをテーマに映画を撮ろうとやって来た。ところが、シナリオが一向に進まない。そこへ怪情報が舞い込んでくる。監督が指定された場所へ行くと、怪事件に遭遇する。しかも、彼の行動は映像化されていた。

 

そう言えば、同じ佐藤春夫門下生だった大坪砂男が、なかなか自作がまとまらず、アイデアを柴田に提供して糊口をしのいでいたとか。この作品にも使われたものがあるのだろう。ただし、かたやメジャー、かたやマイナーでは二人組んで和製エラリー・クイーン岡嶋二人の先駆けとはいかなかったのだろうね。

 

人気blogランキング

暗号作成者と暗号解読者の絶えざる闘い

 

 

『暗号解読 ロゼッタストーンから量子暗号まで』サイモン・シン 青木薫訳を読む。

 

著者の前作の『フェルマーの最終定理』は、肝心要のフェルマーの最終定理はチンプンカンプンだったが、ピュタゴラスからガロアオイラー、そして日本人の2人の数学者からワイルズによる解明にいたるまでの数奇な運命というのか、歴史ドラマがとても興味深く読むことができた。

 

内容は平易で知的エンタテインメントにあふれているが、決してレベルダウンしていない。このアンビヴァレントを本書でも作者は前作以上に遺憾無く発揮してくれる。

 

暗号というと、ミステリーや戦争の情報戦などをまっさきに思い浮かべるが、身近なところでもひじょうに重要な役割を果たしている。その一例が、インターネットショッピングである。クレジットカード決済の際に、SSLというセキュリティ技術を用い、暗号化することで送信時にカード情報の漏洩を防いでいるとか。

 

いかに暗号は作成され、いかに暗号は解読されたのか。それが「テクノロジーの発展を加速させた」。人間の叡智に感服させられると同時に、エンドレスで繰り広げられるイタチごっこに一抹のはかなさを感じてしまった。

 

あ、やっぱり、専門的なことはわかりせん。しかし、暗号の発達史には、作者の才が光っている。暗号が破られ、「エリザベス女王暗殺を企てたと告発され」断頭台に消えたスコットランド女王メアリーのエピソード。ここで作者は「弱い暗号を使うぐらいなら、最初から暗号など使わない方がましだ」と手厳しく述べている。

 

19世紀末、マルコーニが無線通信を発明したことにより、暗号の持つ軍事的価値が着目され、「より信頼性の高い暗号」が急務となった。そこで新たな暗号機が開発された。ドイツが開発したエニグマ暗号機をめぐる解読に至るまでの連合国の必死の取り組み(そういえば、インターネットも元はといえば軍用に開発されたものだった)。

 

第二次世界大戦アメリカはナヴァホ族の言語を暗号に使用し、その通信の機密性を高めようとした。要するに、ナヴァホ語を話せる人間はきわめて少なく、解読されにくいと。「ナヴァホ暗号が難攻不落だったのは、ナヴァホ語がアジアやヨーロッパのどの言語ともつながりを持たない」からだ。

 

ご存知、シャンポリオンが解明したロゼッタストーンと、そこに刻まれたヒエログラフ。

 

コンピュータの発展に伴う高度情報化社会の中での暗号。特にインターネット時代のバックボーンとも言うべき公開鍵暗号が生まれるまでのエピソード。いずれも「へぇ」と言うことばかり。でも、これがTVの特番になると、つまんなくなる、なぜ?文字の方が映像よりも強くイマジネーションを刺激するからなのかな。

 

最後に、未来の暗号として量子暗号を取り上げている。作者曰く「量子コンピューターの巨大な力に対抗して、プライバシーを回復してくれる暗号システムを作ろうというのである」「それは永遠の安全を保証してくれる完全無欠の暗号システムなのだ」。

 

だが、これまで「完全無欠の暗号システム」といわれたものは、すべて解読されてきた。さて、あなたは、どう思われるだろう。


人気blogランキング

批評を書きあぐねている人のために

 

 

『批評の教室-チョウのように読み、ハチのように書く-』北村紗衣著を読む。

 

劇評、映画評、書評などいろいろな批評がある。
ひとつ、自分も書いてみるかとノートPCや帳面を広げる。
twitterなら、短いんで速攻、ツィートできる。しかし…。

 

たとえば書評。あらすじをまとめたものは違うのか。ネタバレにもなりがちだし。
個人的な思い入れたっぷりのラブレターみたいなものは、伝わらないか。
蘊蓄をひけらかしたり、引用ばっかじゃ、お前、結局何が言いたいのかってことになるし。

 

作者が考える良い批評とは。

「私が一番大事だと思っていて、繰り返しいろんなところで言っているのは、批評に触れた人が、読む前よりも対象とする作品や作者についてもっと興味深いと思ってくれればそれは良い批評だということです」

どうすれば批評が楽しく書けるようになるのか。
あしたのジョー』に倣えば「明日のための(その1)は精読する」、「明日のための(その2)は分析する」、「明日のための(その3)は書く」。まずはこの3ステップをマスターせよと。

 

「精読する」で面白いと思ったのは、小説なら

「登場人物や地の文を信じないこと」


作者に対して眉ツバ的態度は大事だが、

「テクストが生まれてきた歴史的背景は押さえておかない」

と。構造主義っぽい。つーか、そのものか。

 

「分析する」でなるほどと思ったこと。

「タイムラインに起こしてみる」「人物相関図に起こしてみる」


時系列や人間関係を整理することでその作品の枠組みが見えてくる。
いわば「書く」ための仕込み。

 

「書く」で禿同したこと。

「自由にのびのび書いてはいけない」


つらくても、この本に書いてあるメソッドの通りに書いてみる。
ピアノでいうならバイエルとか。
巨人の星』の「大リーグ養成ギブス」とか。

「精読する」「分析する」「書く」の理論編にプラス実践編がついている。
どこに着眼してどのように書けばよいのか。良いお手本となっている。

 

『批評の道場』や『批評の虎の穴』というタイトルだったら、
批評千本ノックやうさぎ跳びしながら批評するうさぎ跳び批評とかね。

 

私立探偵を英語でprivate eyeというが、独自の批評眼が持てればってことか。

道は遠いかもしれないが、まずはこの批評スタイルを模倣してみよう。
場数を踏んで、本数をこなせば、やがて自分のスタイルが生まれるはずだ。


余談

著者は映画『ミッドサマー』を単なるホラー映画よりも「ロマンティックコメディ」として捉えている。居場所がなかった女子大生が北欧の村で居場所を見つけた話だものね。

 

人気blogランキング

コキコキ 子機 こき使う

 

 

いつの間にか無線LANができなくなっていたPC。
ネットを見ていたらwinndows10にアップグレートしたが、
PCのWi-Fi無線LAN)機能がそれに対応してないとか。
どおりで。
外付無線LAN子機を買って、セットアップ。
わからんマニュアルを見ながら試行錯誤。
なんだか、つながっていた。

 

今日も昔書いたのシリーズで。

 

『戦後思想の一断面 哲学者廣松渉の軌跡』熊野純彦著を読む。

かなり前に読んだけど、去来するものが多くて、
さくっとまとめることができなかった。

 

この本は、廣松(敬称略)の最後の愛弟子といわれた作者による、
哲学者廣松渉の歩みを記したもの。

 

噂では、うすうす知っていたことが、次々とさらされる。
戦後の夏の時代を不器用なまでにひたむきに闘った男。

実は、廣松が東京大学に教授として迎え入れられる前に、
ぼくが通っていた法政大学で教わる幸運に恵まれた。
『世界の共同主観的存在構造』がテキストだった。

 

講義は人気で他学部や他大学の学生も出席していた。

とても元闘争家には見えないほど、温和で、やさしく、
どんな愚問にも、きちんと対応して答えられていた。

 

ただし、話されることも決して平易ではない。
ましてや文章は。

 

難しいからいけないという風潮があるが、
意味のある難しさと意味のない難しさがある。
「価値」と置換してもよいが。

ちょうどCやGやFのコードを知らなければ、
ギターが弾けないようなもんで、
「即自」だの「対自」などのタームは、
基本的に予め知ってなければ、廣松ゼミに参加する意味はなかった。

 

当時のぼくはサヨクよりも、セイヨク、ブツヨク、ショクヨクのほうが
盛んだった。

 

当初、廣松が物理学を志していたのは驚きだが、
それが後年エルンスト・マッハの翻訳及びマッハの復権に貢献することになる。
全学連の同朋なのか、山本義隆とも知己があったようだ。

 

マルクス主義という言葉は古びてしまったが、その概念は、古びていない。
とてもうまくまとめられないが、廣松流に、唯物史観のビルドアップを試みた。
ソシュール言語学現象学量子力学あたりもエッセンスとして含有されているようだ。
たぶん、京都学派あたりも。

最後に、シビれる箇所を引用。

 

「六月十五日、全学連主流派の隊列のほぼ最前線に、廣松渉の長身があった。
夕刻、右翼の乱入がつたえられ、廣松は「おんなはうしろに下がれ!」と叫んだという。
某氏によれば、樺美智子はすぐさま廣松に鋭い視線をむけ「どうしてですか!」と
食ってかかったよしである。」

 

フェミニストから非難されそうだが。

樺美智子の死をずっと悼んでいたそうだ。
終生、変わらぬマルクスボーイだった。

当然『されどわれらが日々』は大嫌いだったとか。


人気blogランキング

世田谷線にのって

 

引越しでジタバタ。断捨離したつもりでも、徹しきれなかったような。
半年間の仮住まいは世田谷線沿線にある。これが楽しい。
で、高田渡の名曲『自転車にのって』の替え歌を。


世田谷線にのって』

 

世田谷線にのって 景色をながめ
カフェにいこか 古書店にいこか
そして帰りにゃ 花とケーキを手みやげに
世田谷線にのって おうちにむかう

 

世田谷線にのって 世田谷線にのって
なんだかのんびり なんだかほっこり

 

世田谷線にのって 腹をならし
人気のラーメン店で あのコとデート
そして帰りにゃ 招き猫電車とすれちがい
夕陽にてらされ おうちへむかう

 

世田谷線にのって 世田谷線にのって
なんだかのんびり なんだかほっこり

 


www.youtube.com

 

人気blogランキング