暗号作成者と暗号解読者の絶えざる闘い

 

 

『暗号解読 ロゼッタストーンから量子暗号まで』サイモン・シン 青木薫訳を読む。

 

著者の前作の『フェルマーの最終定理』は、肝心要のフェルマーの最終定理はチンプンカンプンだったが、ピュタゴラスからガロアオイラー、そして日本人の2人の数学者からワイルズによる解明にいたるまでの数奇な運命というのか、歴史ドラマがとても興味深く読むことができた。

 

内容は平易で知的エンタテインメントにあふれているが、決してレベルダウンしていない。このアンビヴァレントを本書でも作者は前作以上に遺憾無く発揮してくれる。

 

暗号というと、ミステリーや戦争の情報戦などをまっさきに思い浮かべるが、身近なところでもひじょうに重要な役割を果たしている。その一例が、インターネットショッピングである。クレジットカード決済の際に、SSLというセキュリティ技術を用い、暗号化することで送信時にカード情報の漏洩を防いでいるとか。

 

いかに暗号は作成され、いかに暗号は解読されたのか。それが「テクノロジーの発展を加速させた」。人間の叡智に感服させられると同時に、エンドレスで繰り広げられるイタチごっこに一抹のはかなさを感じてしまった。

 

あ、やっぱり、専門的なことはわかりせん。しかし、暗号の発達史には、作者の才が光っている。暗号が破られ、「エリザベス女王暗殺を企てたと告発され」断頭台に消えたスコットランド女王メアリーのエピソード。ここで作者は「弱い暗号を使うぐらいなら、最初から暗号など使わない方がましだ」と手厳しく述べている。

 

19世紀末、マルコーニが無線通信を発明したことにより、暗号の持つ軍事的価値が着目され、「より信頼性の高い暗号」が急務となった。そこで新たな暗号機が開発された。ドイツが開発したエニグマ暗号機をめぐる解読に至るまでの連合国の必死の取り組み(そういえば、インターネットも元はといえば軍用に開発されたものだった)。

 

第二次世界大戦アメリカはナヴァホ族の言語を暗号に使用し、その通信の機密性を高めようとした。要するに、ナヴァホ語を話せる人間はきわめて少なく、解読されにくいと。「ナヴァホ暗号が難攻不落だったのは、ナヴァホ語がアジアやヨーロッパのどの言語ともつながりを持たない」からだ。

 

ご存知、シャンポリオンが解明したロゼッタストーンと、そこに刻まれたヒエログラフ。

 

コンピュータの発展に伴う高度情報化社会の中での暗号。特にインターネット時代のバックボーンとも言うべき公開鍵暗号が生まれるまでのエピソード。いずれも「へぇ」と言うことばかり。でも、これがTVの特番になると、つまんなくなる、なぜ?文字の方が映像よりも強くイマジネーションを刺激するからなのかな。

 

最後に、未来の暗号として量子暗号を取り上げている。作者曰く「量子コンピューターの巨大な力に対抗して、プライバシーを回復してくれる暗号システムを作ろうというのである」「それは永遠の安全を保証してくれる完全無欠の暗号システムなのだ」。

 

だが、これまで「完全無欠の暗号システム」といわれたものは、すべて解読されてきた。さて、あなたは、どう思われるだろう。


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