数学する身体

数学する身体

数学する身体

 

読みたかった『数学する身体』森田真生著を読む。
休刊が決まった雑誌『考える人』に連載中は、
とびとびで読んでいた。

「独立研究者」として無所属で数学研究している作者にとって
アラン・チューリング岡潔は、まさに先達、師的存在なのだろう。
あ、松尾芭蕉もか。
数学史と哲学と数学に関する論考というと頭で考えたように
思われるかもしれないが、作者は身体をつかって考える。
研究室ではなく日々の日常性から思索する。
それが、実にみずみずしく記述されている。

チューリングは、コンピュータが
「計算する機械」から「数学する機械」へ。
やがて「人間のように思考する機械」へ進化することを
信じていた。
そうなりつつある、いま。

長めの引用。

 

チューリングが、心を作ることによって
心を理解しようとしたとすれば、岡の方は心になることに
よって心をわかろうとした。チューリングが数学を道具として
心の探求に向かったとすれば、岡にとって数学は、
心の世界の奥深くへと分け入る行為そのものであった。
道元にとって禅がそうであったたように、また芭蕉にとって俳諧
そうであったように、彼にとって数学は、

それ自体が一つの道だったのだ」

 

愚直に言えば、西洋と東洋の違いかも。
小理屈をこねるならば、
『数学する身体』から『身体(化)する数学』へ。
名料理人の包丁さばきが身体と包丁が一体化しているように、
数学も身体と同化している。

この本を読んで数学を学ぼうとする若者もいるはず。
金はないから、賛辞の拍手を掌が痛くなるまでしてあげよう。

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ゴディバを3粒

 

ヴァレンタインデーは、ゴディバを3粒。
なめながら、資料を読んだり、
原稿を切り刻んだり。

ディケンズ短篇集』小池滋石塚裕子訳を読む。
ディケンズの企み、狙い、人の暗黒部分などが
うねりをあげて怪奇小説スクルージならぬスクイージ。
で、勝手にベスト3。

『奇妙な依頼人の話』
恨み晴らさでおくべきか。という復讐劇。
報復だけで人生の後半を生きる男。
最後に救いが。いる、いらない。

『子守り女の話』
スティーブン・キングも裸足で逃出すような、ほら&ホラー。
「殺人鬼大尉」は怖くて笑っちゃう。
「お前もミートパイにしてやろうか」。
それから韻を踏むラップのような歌を歌う悪魔。
さすがマザーグースの国。

『信号手』
3人の訳者のを読んだが、絶品。
確か、小池は英国鉄道オタク、テッチャンだしなあ。
「おうい!そこの下の人!」
このフレーズは夢に出てきそう。

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最新の書きますた

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担当したコラムを紹介。
難しそうな専門用語をなるたけ分かりやすく書きますた。

 

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そうだ 獅子文六 読もう

自由学校 (ちくま文庫)

自由学校 (ちくま文庫)

 

またもや仕事がくっついた。
ネコに明け方起こされても
朝までよく寝て、音声データ起こしと
コラム用の資料の出力にかかる。

『自由学校』獅子文六を読む。
最近、読むスピードが落ち気味。
こういうときは、とびきりおもしろいのを
読むのに限る。
で、ちくま文庫版で未読の『自由学校』を手にする。
かっぱえびせん状態。
♪やめられない とまらない♪

風采のあがらない夫に愛想を尽かした妻。
無断で会社を辞めた夫は家から出されるが、
結果、自由を満喫する身となる。
仕事もできる妻は、魅力的で
アプレの若者から金持ち紳士、力自慢の男まで
言い寄られる。
戦後の東京の復興やら混乱やらが書かれている。
キャラ造詣がバツグン。
映画『社長漫遊記』シリーズの登場人物を
当てはめたりしていた。
河村黎吉、森繁久彌小林桂樹三木のり平
加藤大介、フランキー堺小沢昭一
新珠三千代司葉子淡路恵子などなど。

解説を書いている戌井昭人って
戌井市郎の孫なのか。
文学、音楽、アート系の人って
隔世遺伝が意外と多いような。
親子だと反面教師になるのかな。

元のさやにおさまった夫婦のスタイルが、
こりゃまた時代の先をいっている。

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ゾク妖気ぐらし

怪奇小説傑作集 3 【新版】 (創元推理文庫)

怪奇小説傑作集 3 【新版】 (創元推理文庫)


確定申告の準備をする。
excelでつくった経費フォームを名前をつけて保存。
数字を入れれば、いいが、その前準備。

怪奇小説傑作集3 英米編3』を読む。
ラブクラフト、20年ぶりぐらいに読む。

平井呈一の名解説より引用。

 

ラブクラフトのもっとも大きな業績は、わたくしはやはり、かれが
クトゥルー神話というものを創案したことだと思っています」

「これはポオ以降のゴチック・トラディションの上に、さらに
また一つの新しい領域をひらいたものと見てさしつかえないとおもいます。このクトゥルー神話に基づいて、ラブクラフトはしきりとコスミック・ホラーというものを提唱していますが、じつはこのコスミック・ホラーがきっかけになって、今日のSFが誕生したともいえるのであります」

好きだった三作。短い感想をば。

『信号手』チャールズ・ディケンズ
そう、あの文豪。鉄道はホラーネタの宝庫かもしれないが、
さすがのできばえ。

『怪物』アンブローズ・ビアース
冒頭のシーンから引き込まれ、最後まで読ませる。
頭の中に映像が浮かぶのは、良い作品だとするならば、
まさしく、そう。

 

シートンのおばさん』ウォルター・デ・ラ・メア
これは妖気120%。出るぞ、出るぞと思わせながら、
出たのか、出ないのか。ティザー(ジラシ)がうまい。
真綿で首を絞められるように世界に入っていく。
被害妄想気味の少年シートンとその財産を管理するおばさん。

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北風吹き抜く


北風吹き抜く…おっと、JASRACに金払えって言われるかな。
目にゴミ、というよりも花粉を感じる。

『情報社会の<哲学>』大黒岳彦著を読む。
お題は、「グーグル・ビッグデータ人工知能」。
プロフィールを見ると
東大の院からNHKのディレクター経由大学教授。
メディアの現場も知っているだけに、
各章とも濃く、鋭く、読んでいて小気味よい。
こんなところ。

ビッグデータとは“ゴミの山”である。」


「そして「データマイニング」とは、こうした“生ゴミ”の山の
中からレアメタルの如き「価値物」を掘り当てようとする
“ゴミ漁り”の営みにほかならない」


(第2章「ビッグデータの社会哲学的位相」)

 

 

スモーキー・マウンテンか。

インターネットの出現によって社会はフラット化した。
功罪半々。つーか、罪の方が大きいような気がする、私見だけど。
作者はこう述べている。

「インターネットがもたらした“表現の自由”の拡大、と言えば
聞こえがよいが、従来であれば<マスメディア>という権威による
フィルタリングによって決して公の前に出ることのなかった、
ヘイトスピーチ」が-一部略-ネット上に飛び交い、
そしてそれは今や「公道」にまで溢れ出している」


(終章 「情報社会において<倫理>は可能か?」)

 

 

<マスメディア>は、激しい土石流に対して
何もできない砂防ダムのようなものらしい。

子どもがちいさいとき言っていた。
「バカって言う人、自分がバカ」。
それに、ならえば
「フェイクって言う人、自分がフェイク」。

情報社会と哲学って遠い関係にあると思われるだろうが、
実はそうではないと。
作者は旧来の哲学や安直な、たとえば超訳なんたらには
否定的らしい。
たぶん次作か次々作あたりで
作者の考える『情報社会の<哲学>』がお披露目されそうだ。
乞うご期待。

注が長い。そういう本は注釈に要注意。
本文よりも得るものがある場合があるからだ。
索引もたっぷり。
浅漬けの卒論を書かなきゃいけないキミにも、ぴったりだ。

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こわい恵方巻

怪奇小説傑作集〈2〉英米編2 (創元推理文庫)

怪奇小説傑作集〈2〉英米編2 (創元推理文庫)


恵方巻とやらを2日続けて食べる。
正月のモチ・クライシスを乗り越えた
お年寄りは、恵方巻にも、かぶりつくこのだろうか。
ロシアンルーレットならぬ恵方巻ルーレット。
もし恵方巻で窒息したお年寄りの遺族が、
恵方巻を訴えたら、どうなるのだろう。

怪奇小説傑作集2』ジョン・コリアー他 
宇野利泰・中村能三訳を読む。
怪奇小説傑作集1』が、クラシックなゴシックホラーだったのに、
「半世紀」若くなるだけで随分と作風が新しくなる。
怪奇よりも奇想、SF色が濃くなっている。

平井呈一の解説の引用。

「前期の恐怖作家がゴチック小説の流儀を踏襲して、
いろいろくふうした怪しい不気味な条件と環境をとりそろえて、
自然と人生の上に超自然的恐怖を組み立てていったのに反して、
後期「現代派」の恐怖作家たちは、現代生活の現実の隙間のなかへ、
いきなり超自然を押しこむことをはじめたのであります。
言いかえると、かれらは日常生活の隙間に手をかけて、

いきなりそいつをひんむいて、内側にある恐ろしいものを
見せることをはじめたのです」

 

 

「内側にある恐ろしいもの」見たいよねえ。

これってシュールレアリスムともカブる。

好きだった三作。短い感想をば。

『みどりの想い』ジョン・コリアー
ネタバレすると、植物になった人間の話。
ネタバレしても、面白さは損なわれないから。

 

『船を見ぬ島』L・E・スミス
島に漂流したと思ったら、その島が実は。
惑星ソラリス』で海は大脳皮質を意味しているんだっけ。
そんな話。

 

『住宅問題』ヘンリイ・カットナー

借家人の鳥かご。いつも布がかぶせてあって気になる夫婦。
借家人の留守にのぞいてみると…。
その住人のエピソードの小ネタが気に入った。
「FOR RENT 家貸します」という意訳のタイトルはいかがっすか。

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