ナウい翻訳でよみがえる漢詩、感じいい

 

 


『いつかたこぶねになる日』 小津 夜景著を読む。

 

俳句や短歌は、このところ、若い人が現われて活況を呈している。読み手よりも詠み手が多いといわれているが。かつての敬老会の趣味といった体はないかも。いや、あるのか。

 

なら、漢詩はどうだろう。NHK大河ドラマ「光る君へ」では、貴族のたしなみとして漢詩を詠んでいるが。

 

古今東西(西はないか)の漢詩俳人である作者が、現代語訳に訳してその魅力を紹介している。その訳がお見事。「杜甫や李賀、白居易」から菅原道真、「新井白石夏目漱石」まで多彩な漢詩がなんつーかアップデート、今様、ナウい漢詩になっている。feel so good !

 

良寛漢詩を引用。

「『 良寛の「我生何処来」 』
       読み下し文

我生何処来  我が生は何処より来たり
去而何処之  去って何処へ行くのか
独坐蓬窓下  独り蓬窓の下に坐して
兀兀静尋思  兀兀と静かに尋思す
尋思不知始  尋思するも始めを知らず
焉能知其終  焉んぞ能くその終わりを知らん
現在亦復然  現在亦また然り
展転総是空  展転として総ては是れ空
空中且有我  空中にしばらく我有り
況有是與非  況んや是と非と有らんや
不如容些子  些子を容れるに如かず
随縁且従容  縁に随ってしばらく従容す


       翻訳

我生何処来  僕はどこから来て
去而何処之  どこへ去ってゆくのか
独坐蓬窓下  ひとり草庵の窓辺にすわって
兀兀静尋思  じっと静かに思いめぐらしてみる
尋思不知始  思いめぐらすもはじまりはわからず
焉能知其終  ましてやおわりはもっとわからない
現在亦復然  いまここだってまたそうで
展転総是空  移ろうすべてはからっぽなのだ
空中且有我  からっぽの中につかのま僕はいて
況有是與非  なおかつ存在によいもわるいもない
不如容些子  ちっぽけな自分をからっぽにゆだね
随縁且従容  風の吹くままに生きてゆこう     」

 

ゴーギャンの代表作のタイトルのようであり、実存哲学のようであり、ま、禅寺(曹洞宗)の和尚さんだったからね、良寛さんは。最後の一行はボブ・ディランの『風に吹かれて』の「 The answer is blowin' in the wind 」とつながる。

 

本の構成が、まず、フランスで暮らす作者のエッセイから入ってそれにリンクする漢詩を取り上げている。この構成、逆がよいのでは。最初のページに小津夜景訳と漢詩が大きな文字で。次のページにエッセイ。ま、大きなお世話だが。

 

エッセイはお菓子作りやコロナ禍のパリでのベランダーや南仏の海、自身の病気や夫との出会いなどが描かれている。多和田葉子須賀敦子あたりが好きな人ならおすすめ。

 

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