『悲劇週間―SEMANA TRAGICA』矢作俊彦著、読了。
『月下の一群』など、翻訳というよりも、原文である欧文を新しい日本語として書き換えた堀口大學。後の日本の作家に与えたインパクトを鑑みれば、それは新たなOSの考案者といってもオーバートークじゃないだろう。
その堀口のまぶしい青春記。といっても30歳ぐらいまでパパのスネかじり外遊をしていたらしいので、高等遊民であり、帰国子女、いまなら、外資の広告代理店にAEで入社できたかも。というのは失礼に値するか。
この本は、なんだかポール・ニザンの『アデン・アラビア』のパスティーシュのようでもあるが、そこは作者の腕で実にハードボイルドかつ読みでのある一級の娯楽作品に仕上げてある。背景がびっしり描きこまれた劇画のよう。
堀口大學の父・堀口九萬一は、新潟・長岡藩、賊軍の武士の子として生まれ、苦学しながらも生来の頭の良さで外交官となる。
堀口大學は盟友佐藤春夫とともに一高の試験に失敗し、慶応大学の予科に入る。やがて父の赴任先であるメキシコへ外遊する。途中ハワイで血を吐いてしばらく滞在するのだが、ハワイのシーンがなんともはやレイドバックしていて、うらやま。
時代的にはまだ明治維新、官軍、賊軍のしこりが癒えぬ時期、メキシコでも青年堀口は元会津藩の矍鑠たるサムライや現地の革命戦士、メヒコ・サムライなどと出会う。そして恋も。
「メキシコ革命」をめぐり、大国アメリカの内政干渉、親米派・嫌米派の対立などは、いまと変わらぬ図式。
この頃、日本は躍進目覚しくアジアの小国から欧米にキャッチアップしようと富国強兵・殖産興業とかでイケイケドンドン、自称アジアの大国になりつつあった。アジアの星として淡い期待を抱かれてもいたのだが、名誉白人と呼ばれたほうがよかったらしい。
読み終えてしばらくすると、そうか、反戦小説としても読めるんだなと。
メキシコのまぶしい光が伝わってきそう。
そうそう、ルイス・ブニュエルもスペイン内乱でフランコ政権に戦い、敗れて、アメリカ経由でメキシコに亡命した。岡本太郎もメキシコに魅了されたし。