「エドガー・ポーを読む人は更にホフマンに遡らざるべからず」

 

 

『黄金の壺/マドモワゼル・ド・スキュデリ』E.T.A.ホフマン著 大島かおり訳を読む。

 

『黄金の壺』
いやはや、これはまばゆいばかりの幻想的な世界が行間からダダ漏れしている。大学生アンゼルムスくんは、接骨木(にわとこ)の木で「美しい三匹の金緑色の蛇」に出会い、
たちまち恋をする。そんなアンゼルムスに好意を抱いている大学副学長の美しい娘・ヴェローニカ。アンゼルムスくんは、蛇にも惹かれるが、ヴェローニカにも惹かれる。

この三角関係をこじらせているのが、「美しい金緑色の蛇」の父親である枢密文書管理官リントホルストとヴェローニカのばあやリーゼ。二人は長年の敵同士だった。達筆な字を書くリントホルストは事務官ヘールブラントの紹介でアンゼルムスのもとで筆耕のアルバイトをすることになる。
奇怪なアンゼルムスと不思議な彼の屋敷。「美しい三匹の金緑色の蛇」に出会えず焦燥気味のアンゼルムス。リントホルストは娘たちだと話して合わせてくれる。
自分の思いが通じないヴェローニカは「透視能力を持った」老婆に相談に行く。その老婆こそ彼女が小さい頃面倒をみたもらったリーザばあやだったとは。
魔法で決着をつけようとする火の精リントホルストとリーゼばあや。しかし彼女は破れて元の砂糖大根の姿に。

アンゼルムスくんは婿入りして「美しい金緑色の蛇」の一人ゼルパンティーナと荘園で暮らす。おいおい。彼女が抱えている黄金の壺。「壺からはみごとな百合の花が一輪」。めでたし、めでたし。絵本もいいいが、昔ながらの人形劇で見たい作品。


マドモワゼル・ド・スキュデリ』
頃はルイ14世が治めていたパリ。花開く貴族文化の一方で殺人、強盗など犯罪も絶えることはなかった。
金細工師カルディヤックは当代一の腕前と定評があり、注文は引く手あまた。偏屈な職人気質のせいか出来上がった宝飾品をなかなか渡さないこともあった。
そのカルディヤックの素晴らしい宝飾品を持っている貴族たちがたて続けに殺された。最後にはカルディヤックまでもが。むろん、宝飾品は略奪された。
容疑者として弟子のオリヴィエが逮捕される。その事件に立ち向かうのは詩人の「マドモワゼル・ド・スキュデリ」。彼女にはオリヴィエが真犯人とは思えなかったからだ。
捜査する彼女。明らかになる真実。カルディヤックには隠された恐ろしい一面があった。お、これは、ミステリーではないか。とりわけ彼の住む建物の描写などゴシック小説風味にあふれている。


訳者解説で「森鴎外が「エドガー・ポーを読む人は更にホフマンに遡らざるべからず」と。『玉を砕いて罪あり』という題名で」翻案しているそうだ。


本作品は『カルディヤック』として、パウルヒンデミットによりオペラ化されている。

 

『黄金の壺』が幻想小説のはじまりの一つとするなら、『マドモワゼル・ド・スキュデリ』はミステリーのはじまりの一つ。源流を辿るのも読書の醍醐味。


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