奇想と暴力

死体展覧会 (エクス・リブリス)

死体展覧会 (エクス・リブリス)


ワールドカップサッカー、日本がコロンビアに勝つとは。
競馬なら万馬券ってところ。
急遽、原稿を書くことになって
ムチを入れる一人SM状態。

『死体展覧会』ハサン・ブラーシム著 藤井光訳を読む。
イラク出身の作家。
過激な作風ゆえネイティブであるアラビア語版は発禁だそうな。
訳者あとがきによると好きな作家は
カフカボルヘスカルヴィーノ


収録されている14の短編は、どれも確かに残酷でシュールで
暴力的でホラーでSFっぽい。
日本の黎明期の劇画作品にも通じるものがある。
劇画はええとお子様向けの真・善・美の漫画とは一線を画す。
大人が読むもの。
暴力、反社会性により社会の差別や不合理を訴える。
アルフレッド・ベスターの書く暴力にも通じるものがある。


映像作家でもあるので『記録と現実』なんて
偽ドキュメンタリー感、ありあり。
イラク人キリスト』は、オチを見破った。
敬虔なキリスト教徒はどう思うだろう。
汝撃たれそうになったら右の頬を出すことなく、
巻かれた爆弾ベルトを見せよ。長っ。

人気ブログランキング

歩いて帰ろう

須賀敦子全集〈第3巻〉 (河出文庫)

須賀敦子全集〈第3巻〉 (河出文庫)


ユルスナールの靴』須賀敦子著を読む。
プロローグの一文にしびれる。


「きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いて
いけるはずだ。そう心のどこかで思いつづけ、完璧な靴に出会わなかった
不幸をかこちながら、私はこれまで生きてきたような気がする」

 


ユルスナールの暮らした国を追体験する。
女性作家の先達としての苦悩、同性愛、
作家の資質を気づかせた父親の存在。
このあたり須賀にも共通しているかも。
ユルスナールの父親は没落貴族の典型で
きれいさっぱり資産を食い詰めてしまった。

イタリアに暮らしていた須賀が
意外にも初めて来訪するギリシャ体験記からは
青い空と白い神殿が目に浮かぶ。
『黒い廃墟』というタイトルに出てくる
ピラネージの銅版画『ローマの景観』シリーズを見てみたい。

引用。

「ことばで生きるものにとって、それによって生かされている
ことばが、身のまわりに聞こえないところで死ぬのが、なによりも
淋しいのではないかと、考えたことがある」

 

最後の著作にふさわしい出来栄え。

ユルスナールのことだが、須賀自身のことでもある。
イタリア語なのか、日本語なのか。
ユルスナール、読んでみるか。

靴つながりで。
昔、銀座のショップがリニューアルするので
セールをしていた。
ヌメ革のイタリア製のウイングチップが
手招きしていた。
底も革底。
自分で買ったのか、買ってもらったのかは失念したが。
たぶん後者だろう。
軽くて足にも割と早くなじんだ。
しかし、梅雨になって
手入れせずにほったらかしにしておいたら
残念なことにカビだらけ。
末期がんのようにカビの菌は
靴の全体に拡散していたのだろう。
諦めた。
安物買いではないが銭失いとなった。

人気ブログランキング

プラトン的恋愛

ギリシャ語の時間 (韓国文学のオクリモノ)

ギリシャ語の時間 (韓国文学のオクリモノ)


資料を読みつつ、不動産関係のコラムをまとめる。
レギュラーが一つ無くなったのは食い扶持を一個失くしたことなので
営業しようとは思うが、いまいち動かない。動けない。
企業漫画原作・シナリオの仕事にでも応募してみようかな。

ギリシャ語の時間』ハン・ガン著 斎藤真理子訳を読んだ。
言葉を失くした女性と
光を失くしつつある男性。
女性は生徒。
男性はギリシャ語の講師。
単なるボーイ・ミーツ・ガールものじゃないけど。
めんどくさくてインテリっぽくて
ユーロシネマとかでかかるオシャレな映画のてい。
男女の語り掛け合いが
『24時間の情事』(アラン・レネ監督、マルグリット・デュラス脚本)
という古い映画を思い出させる。
プラトン的恋愛』は金井美恵子の小説だが、
こっちの題名の方がしっくりくる。個人的感想です。
プラトンプラトニック・ラブ。

古典ギリシャ語という字面を見てもちんぷんかんぷんだけど。
「中動態」という受動、能動、その中間に位置する態があると。
こじつけると、いまって二項対立じゃん。
保守、革新。禁煙、喫煙。築地、豊洲。唯物、唯心。
正常、異常。あれか、これか。白か黒か。
そう単純に割り切れないだろと。
筒井康隆の『残像に口紅を』を読んだときと
同じような哀しさ、喪失感を覚えた。

本作は「韓国文学のオクリモノ」ってシリーズの一冊。
版元は、なつかしの晶文社
もうサイのマークじゃないんだ。
寄藤文平と鈴木千佳子の装丁がいい。
音楽はBTS (防弾少年団)、小説はK文学かよ。

人気ブログランキング

家族の肖像


トリエステの坂道』須賀敦子著を読んだ。
亡き夫の家族の肖像。
義父は鉄道員
ほんとにイタリア映画の『鉄道員』と重なる世界。

世渡り下手な義父。
払い下げの鉄道官舎に住む義母。
家具調度品から暮らしぶりまで
丹念に綴る。
つつましい暮らしの中で楽しむ術を知っているイタリアの人たち。
読んでいて子どもの頃を思い出した。
母の手編みのセーターを着せられていたとか。

義理の弟が遅い結婚をする。
早世した兄はできが良く、弟はドロップアウトした生き方を選んだ。
嫁はオーストリア国境の山村出身。チロル地方か。
結婚式に出られなかった作者は、
のちにその地を訪れ、もてなされる。
妻の父親が根っからの山男。
心は優しいが無愛想。
アルプスの少女ハイジ」のアルムおんじのように。
後年作者は気に入られたようで
美酒といわれる密造のグラッパをもらう。
これは飲みたいと思った。

義母が家庭菜園をやっていて
花やハーブなどを育てていた。
夫の存命中は懇願しても連れていってくれなかったが、
夫の死後、秘密の花園へ案内される。
完成度の高い作品。月並みなクリシェだが。

作者の書くものは、みな来し方の記。
なんだけど、生きることなどが
心の奥深いところにまで刺さる。

人気ブログランキング

こればっかり

梅雨時がツバメ、スワローズの季節とは。
明日の朝は大雨とか。
月曜日の大雨って多くないか。
出鼻をくじかれる。
やれやれ。

最近はこればっかり聴いている。
KIRINJI - 「AIの逃避行 feat. Charisma.com」


エレクトロ・ファンクっぽいというのか、
ディスコサウンドっぽいというのか。
そこに堀米兄の純文学的なリリック。
兄弟デュオの頃のKIRINJIは、
弟のファンだったけど。


トリエステの坂道』須賀敦子著、読了。
べらぼーに、ブラボー。
ギリシャ語の時間』ハン・ガン著を読んでいる。

 

人気ブログランキング

信仰と信念の人

須賀敦子の方へ (新潮文庫)

須賀敦子の方へ (新潮文庫)

  • 作者:巖, 松山
  • 発売日: 2018/02/28
  • メディア: 文庫

 

朝のシャワーがクセになる季節。

須賀敦子の方へ』松山巌著を読む。
評伝なんだけど
生前、須賀との親交があった著者は
須賀が暮らした土地をたずねて
親族、友人、仕事関係者など
ゆかりある人たちに取材して
彼女の軌跡をたどる。
ま、映像ではおなじみだけど、
紙のドキュメンタリーのような手法が新鮮。

作家を知るには作品をあたれという。
ネットでもある程度までは知ることができる。
このところ、ランダムに須賀の著作を読んでいるが、
この本を読むことで一気通貫というのか
見えなかったものが見えるようになった。

須賀の人生に大きな影響を与えたのは、
父親に愛人がいたことと
親しい人がシスターになったことだそうだ。

カトリック協会が戦後日本の大学生を留学させた。
布教でもあり文化貢献でもあったのだろう。
須賀と同じルートで渡仏したの遠藤周作だそうだ。
面識はあったのか、なかったのか。
翻訳をすすめたのが有吉佐和子

 

「彼女の生涯を手短に辿ると、須賀は困難にぶつかる度に、
常にすべて一から始めている。コルシカ書店への参加、
日本文学のイタリア語翻訳、東京でのエマウス運動、大学教師、
そして作家。何事も偉ぶらず基礎から考え、学び、自問する。
これが彼女の自分らしさだ」


信仰と信念の人。


若い頃の写真を見るとやはりええとこのお嬢さん。
よく笑い、健啖家でもあったそうだ。
あだ名は名字をひっくり返して「ガス」。
60歳を過ぎてガスは爆発する。

書きますた。


人事考課は正しく進めないと逆効果に?目的とメリット・デメリットを再確認

 

人気ブログランキング

 

ぼくもプレスリーが大好き

誰でもない (韓国文学のオクリモノ)

誰でもない (韓国文学のオクリモノ)


録音しておいた『ウィークエンドサンシャイン』を聴く。
D.J.はピーター・バラカン
エルヴィス・プレスリーの特集。
片岡義男ではないが、プレスリーは好きなので
久々にベスト盤CDを聴く。これしか持っていない。
時々大瀧詠一、時々西田敏行が歌っているのかと
そら耳してしまうが、歌声が色っぽい。

『誰でもない』ファン・ジョンウン著 斎藤真理子訳を読む。
今日的でありなおかつクールな作品だと思う。
社会学者・岸政彦あたりの書くテーマとほぼ同じだと思うが、
きちんと小説に仕立て上げている。
貧しさ、心身における病気、格差社会などなど。
21世紀になってなんだか昔返りしてしまったようだが、
昔のままじゃなくて変異した新しい貧困、病気、格差社会が露呈した。
まあネオでもくっつけてみるか。
ネオ貧困。大学は出ているが、希望する職種で正社員になれず、
時給仕事の掛け持ち。とか。
『ヤンの未来』は書店でバイトする女性の話。
本好き、書店好きなあなたなら、はまりますぜ。

日常的な共感できる短篇集。
そうなんだけど、懐に短刀を忍ばせている。
社会への怒り、不満など。
直接アジテーションはしないで
小説で落とし前をつけている。
だぶん日本でも、アメリカでも、エチオピアでも
翻訳されたものを読んで得るものは同じような気がする。
いい言葉が浮かばないので、世界品質(仮)とする。

 

人気ブログランキング