言葉のローラーコースターやぁぁ

聖家族

聖家族

『聖家族』古川日出男著の読書メモ。


東北地方―みちのくとも呼ばれるが、語源は道の奥、陸奥。
東北は方角的に丑寅で鬼門、鬼が棲んでいると言われた。
武家が幕府を開く時に、朝廷から代々征夷大将軍の称号を認定されたが、
その初代は坂上田村麻呂。夷敵の地である東北を制圧した。
福島県の田村郡は、その名にちなんで。
東北は、源義経が逃亡先に選んだ、聖域、アジールでもある。


この本は、東北地方を舞台にしたある血族の物語であり、
東北のゲニウス・ロキ(地霊)の物語でもある。
全体小説、あるいは大きな物語の復権を狙っているのだろうか。
復権ではないか。新しさを感じるもの。
きわめてスピーディーな文体、
時制なんか構ってられるかというテンポ良い展開、
繰り広げられる一種のスペクタル的世界は、読むものを魅了する。
これほどまでページをめくるスピードが高速だったことは最近ではなかった。


同地出身である作者は、東北弁、−正しくは郡山弁かも−方言を
駆使している。作者と同郷であるぼくには、ひたすら懐かしい。
土着的、猥雑な生的エネルギーに満ちあふれている。
井上ひさしの『吉里吉里人』あたりを思い出す。
フォークナーのアメリカ南部、「架空の土地ヨクナパトーファ郡」や
中上健次の紀州ともダブる。
東北地方の物語だが、そうであってそうではない。
辿れば、遡れば、あなた自身の物語でもあることが理解できるはず。
ともかく一気に読みきることだ。細部は再読で味わおう。
作者の真似をして朗読してみれば、文章の心地よいリズムが伝わる。


逃亡小説、伝奇小説、犯罪小説など、
1冊でいろいろな味が楽しめるんで、読む人にとって評価が異なるだろう。
いままで作者が発表していた作品は、
この本を書くためのエチュードだったのかもしれない。


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