SF、奇想、歴史ものなどテイストは異なるが、底知れぬ世界をチラ見せしている

 

 


『嘘つき姫』坂崎かおる著を読む。紙の本ではデビュー作となる短篇集。9篇ともSF、奇想、歴史ものなどテイストは異なるが、うまく言えないが、それぞれに何かひっかかかるものがある。


つーことは、作者の企みやトラップにはまってしまったのかもしれないが。凡百の小説だと、すべてを説明しがちだが、省略と抑制が功を奏して底知れぬ世界をチラ見せしている。ちと大仰かもしれないが、そんだけ、おもろーってことで。何篇か、ちょっとだけ紹介。

 

『ニューヨークの魔女』
19世紀、ニューヨーク。2つの会社で「処刑用電気椅子」の開発を競い合っていた。
女性電気デザイナー・アリエルは、電気椅子の実験用サンプルとして魔女を使うことに。だって不死だから。彼女は最新式の電気で死ぬことを望んでいたが。サーカスで「電気椅子ショー」を見せることに…。

 

ファーサイド
1962年、米ソが水爆実験を成功させ、「世界の終わりまであと7日」の日。「ぼく」は登校しないで祖父の麦畑の収穫の手伝いに。そこでは珍妙なDたちが働いていた。彼らはいつの間にか来て村にいついている。仲間の一人デニーを雇うことになった。ぼくの妹が亡くなってデニーに嫌疑がかけられる。ほんとうなのか。そして終末はやって来るのか。

 

『リトル・アーカイブス』
軍事用ロボット「バイベッド(二足歩行)」は、兵士のリプレイスメント用として開発された。オリバー一等兵が「バイベッドを庇って戦死」したと。
不審に思った母親のミラは裁判を起こす。バイベッドは他の兵士とはうまく機能しなかったが、元々ロボット好きのオリバーは、バイベッド遣いの名手だったようだ。人間よりもロボットの方にシンパシーを感じていた。ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアばりのメカ感。

 

『 私のつまと、私のはは』
理子と知由里はカップル。将来、子どもを持つために、疑似哺育体験キット「ひよひよ」を試す。「たまごっち」の進化版のようなものか。ARを駆使した最先端テクノロジーでかなりリアルな育児が感じられる。性格が真逆な二人。ヴァーチャル育児でも方法が異なり、ギクシャクする。こんなはずでは…。

 

『電信柱より』
リサは電信柱を切る仕事に就いていた。圧倒的に女性が多い職業。路地裏の古びた木製電信柱を切ることになっていたが、彼女はその電柱に恋をして、残そうとする。そばの家の住人を説得する。

 

『噓つき姫』
1940年、フランス。ドイツ軍が間近に迫っていた。マリーは母親と避難中、ドイツ軍の飛行機から機銃掃射を浴びる。そこで親を殺されたエマと出会う。二人は姉妹ということにして行動を共にする。廃墟となった教会での共同生活。二人は衰弱したフランス兵をかくまう。教会にドイツ兵たちが来た。そのとき、エマは。やがてエマから手紙が来る。話は意外な展開。こんがらがる。


『日出子の爪』
転校生のサキちゃんが植木鉢に切った爪を植えた。すると指のようなものが生えて来た。クラスメイトは、自分の爪を植えるが、変化はない。ピアノを習っている日出子は長くない指にコンプレックスを抱いていた。サキが内緒で持ってきた母親のマニュキュアを日出子と塗る。日出子の長い爪。学校の怪談。シャーリイ・ジャクスンばりのフェティッシュなザワザワ感。

 

さて、次はどんな世界を見せてくれるのだろうか。

 

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