ゾク妖気ぐらし

怪奇小説傑作集 3 【新版】 (創元推理文庫)

怪奇小説傑作集 3 【新版】 (創元推理文庫)


確定申告の準備をする。
excelでつくった経費フォームを名前をつけて保存。
数字を入れれば、いいが、その前準備。

怪奇小説傑作集3 英米編3』を読む。
ラブクラフト、20年ぶりぐらいに読む。

平井呈一の名解説より引用。

 

ラブクラフトのもっとも大きな業績は、わたくしはやはり、かれが
クトゥルー神話というものを創案したことだと思っています」

「これはポオ以降のゴチック・トラディションの上に、さらに
また一つの新しい領域をひらいたものと見てさしつかえないとおもいます。このクトゥルー神話に基づいて、ラブクラフトはしきりとコスミック・ホラーというものを提唱していますが、じつはこのコスミック・ホラーがきっかけになって、今日のSFが誕生したともいえるのであります」

好きだった三作。短い感想をば。

『信号手』チャールズ・ディケンズ
そう、あの文豪。鉄道はホラーネタの宝庫かもしれないが、
さすがのできばえ。

『怪物』アンブローズ・ビアース
冒頭のシーンから引き込まれ、最後まで読ませる。
頭の中に映像が浮かぶのは、良い作品だとするならば、
まさしく、そう。

 

シートンのおばさん』ウォルター・デ・ラ・メア
これは妖気120%。出るぞ、出るぞと思わせながら、
出たのか、出ないのか。ティザー(ジラシ)がうまい。
真綿で首を絞められるように世界に入っていく。
被害妄想気味の少年シートンとその財産を管理するおばさん。

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北風吹き抜く


北風吹き抜く…おっと、JASRACに金払えって言われるかな。
目にゴミ、というよりも花粉を感じる。

『情報社会の<哲学>』大黒岳彦著を読む。
お題は、「グーグル・ビッグデータ人工知能」。
プロフィールを見ると
東大の院からNHKのディレクター経由大学教授。
メディアの現場も知っているだけに、
各章とも濃く、鋭く、読んでいて小気味よい。
こんなところ。

ビッグデータとは“ゴミの山”である。」


「そして「データマイニング」とは、こうした“生ゴミ”の山の
中からレアメタルの如き「価値物」を掘り当てようとする
“ゴミ漁り”の営みにほかならない」


(第2章「ビッグデータの社会哲学的位相」)

 

 

スモーキー・マウンテンか。

インターネットの出現によって社会はフラット化した。
功罪半々。つーか、罪の方が大きいような気がする、私見だけど。
作者はこう述べている。

「インターネットがもたらした“表現の自由”の拡大、と言えば
聞こえがよいが、従来であれば<マスメディア>という権威による
フィルタリングによって決して公の前に出ることのなかった、
ヘイトスピーチ」が-一部略-ネット上に飛び交い、
そしてそれは今や「公道」にまで溢れ出している」


(終章 「情報社会において<倫理>は可能か?」)

 

 

<マスメディア>は、激しい土石流に対して
何もできない砂防ダムのようなものらしい。

子どもがちいさいとき言っていた。
「バカって言う人、自分がバカ」。
それに、ならえば
「フェイクって言う人、自分がフェイク」。

情報社会と哲学って遠い関係にあると思われるだろうが、
実はそうではないと。
作者は旧来の哲学や安直な、たとえば超訳なんたらには
否定的らしい。
たぶん次作か次々作あたりで
作者の考える『情報社会の<哲学>』がお披露目されそうだ。
乞うご期待。

注が長い。そういう本は注釈に要注意。
本文よりも得るものがある場合があるからだ。
索引もたっぷり。
浅漬けの卒論を書かなきゃいけないキミにも、ぴったりだ。

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こわい恵方巻

怪奇小説傑作集〈2〉英米編2 (創元推理文庫)

怪奇小説傑作集〈2〉英米編2 (創元推理文庫)


恵方巻とやらを2日続けて食べる。
正月のモチ・クライシスを乗り越えた
お年寄りは、恵方巻にも、かぶりつくこのだろうか。
ロシアンルーレットならぬ恵方巻ルーレット。
もし恵方巻で窒息したお年寄りの遺族が、
恵方巻を訴えたら、どうなるのだろう。

怪奇小説傑作集2』ジョン・コリアー他 
宇野利泰・中村能三訳を読む。
怪奇小説傑作集1』が、クラシックなゴシックホラーだったのに、
「半世紀」若くなるだけで随分と作風が新しくなる。
怪奇よりも奇想、SF色が濃くなっている。

平井呈一の解説の引用。

「前期の恐怖作家がゴチック小説の流儀を踏襲して、
いろいろくふうした怪しい不気味な条件と環境をとりそろえて、
自然と人生の上に超自然的恐怖を組み立てていったのに反して、
後期「現代派」の恐怖作家たちは、現代生活の現実の隙間のなかへ、
いきなり超自然を押しこむことをはじめたのであります。
言いかえると、かれらは日常生活の隙間に手をかけて、

いきなりそいつをひんむいて、内側にある恐ろしいものを
見せることをはじめたのです」

 

 

「内側にある恐ろしいもの」見たいよねえ。

これってシュールレアリスムともカブる。

好きだった三作。短い感想をば。

『みどりの想い』ジョン・コリアー
ネタバレすると、植物になった人間の話。
ネタバレしても、面白さは損なわれないから。

 

『船を見ぬ島』L・E・スミス
島に漂流したと思ったら、その島が実は。
惑星ソラリス』で海は大脳皮質を意味しているんだっけ。
そんな話。

 

『住宅問題』ヘンリイ・カットナー

借家人の鳥かご。いつも布がかぶせてあって気になる夫婦。
借家人の留守にのぞいてみると…。
その住人のエピソードの小ネタが気に入った。
「FOR RENT 家貸します」という意訳のタイトルはいかがっすか。

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世界はそれをAIと呼ぶんだぜ

老いると猫も寝ている椅子から転げ落ちる。

人工知能って、そんなことまでできるんですか?』
松尾豊、塩野誠共著を読む。


コンピュータ、AIについて
なんとなくうっすらとは知っているが、
せめて基本的なことは知っておきたい。
そんな人にはうってつけの本。
「ビジネス戦略家」の塩野氏が、生徒役で
人工知能の専門家」で「東大准教授」の松尾氏が先生役。

以下ランダムに引用と感想。

人工知能と呼ばれないプログラムと比べると、
挙動が状況に応じて変わる、状況に応じてより適切なふるまいを
するところが、いちばんの違いと言っていいでしょう」

 


「適切なふるまい」、学習能力か。物覚えの悪いおとうさんよか
ルンバの方が賢いとか。

「予測精度が異様に高い人工知能が、人間の役割にとって代わり、
自己複製をはじめたとき、人間の存在意義はどこにあるのか」


移民に職を奪われた白人のように、AIに職を奪われる日が来るのか。
「生き残れる職業、生き残れない職業」ビジネス誌の特集を思い浮かべる。

人は「直観的な因果関係を重視する」

 

 

たとえ間違いだったとしても。
それを屁にも思わない

人工知能の判断に従えるか」。

 

 

2001年宇宙の旅』のHALとか。

「「ユークリッド空間から位相空間への写像マシン」
脳は位相化を行う装置であり、人工知能の本質はそれを
エミュレートするところにあると考えます」

しびれる。

 

「ロボット3原則」ならぬ「AI3原則」でもできるのか。

AIの進化が、「人類の謎」や人間の脳をさらに解明し、
いきつくところは、神の存在を立証するとか。


対談をうまく構成してある。
用語解説も丁寧についている。
入門書のお手本のような本。
願わくば、参考になるようなブックリストも
つけてほしかった。

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つらいのお~

男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学

男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学

 

気温の乱高下は、つらいのお~。

『男がつらいよ』田中俊之著を読む。
副題が「絶望の時代の希望の男性学」。
読むきっかけは、J-WAVE『OTHERS』。
ゲストで著者が出ていた。
女性学はたくさんの研究者がいる。
一方、男性学は、いわゆるニッチ。
女性学レッドオーシャンなら、男性学ブルーオーシャン
ゆえに、男性学を選んだと。

で、さくっと読めた。
森岡正博の『感じない男』から、告解と性癖を抜いたような本。
ほらメンズ・リブとか、ちょっと注目されたけど。
どうしてもオス度の高い従来の男性優位主義とは
あえて真逆の立ち位置なんで、
マッチョな人は、読んだら立腹するだろう。
そうだ、そうだと一服した人とて
別段えらいとかそういうわけではない。

コケンとコカンにこだわるのが男性のさがだとしたら、
脱ぎ捨てようと。
「生きづらい」のは何も女性だけではなくて、
男性もそうだと。
『男が』の「が」は、男の方がつらいと言いたいのだろうね。
それはこっそり、うなづける。
終身雇用制の企業で会社員をしていないと、
結婚をしておらず、当然子どもがいないと、
近所の口さがないおばさんたちの井戸端会議のネタになる。
「子どもが好きだから先生になりました」などでも言おうものなら、
白眼視される当世。
昼日中、家でブラブラしているフリーライターなぞも
白眼視される当世。
「男らしさ」って何だろうと、改めて思う。

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ゆりと吸血鬼

吸血鬼カーミラ (創元推理文庫 506-1)

吸血鬼カーミラ (創元推理文庫 506-1)


12000文字を2000文字にする作業も、
なんとなく形がついてきた。

『吸血鬼カーミラ』レ・ファニュ著 平井呈一訳を読む。
他の短編もおもろかったが、
やはり表題作がダントツ。
「でございます」調が、中学生のとき、
文学にマセていた同級生から借りて読んだ『ファニー・ヒル』を
思わせる文体。
真似したくなる。実際にした。
訳者の作品ごとに文体を変えるテクは、見事。
要するに、ゆりもの。美貌の女性吸血鬼とヒロインの話。
妖しくて妄想をかきたてられる。
解説によると、1871年―1872年に書かれたそうだ。
日本だと明治3-4年か。

訳者の解説でレ・ファニュのほとんど隠遁生活で
怪奇小説に捧げた生涯にも
興味を覚えた。
執筆は真夜中、作品のモチーフは夢からという。
『こんな怪奇小説ばかり書いていた。』

そうか、ロジェ・バディムの映画『血とバラ』の原作だったのか。
映画は、はるか昔、東京12チャンネルの深夜か午後のカットだらけで
しかも吹き替え版で見たと記憶しているが、さすがに詳細までは。

アニメ『ユリ熊嵐』の製作チームでアニメ化してもいいなと
勝手に思う。

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のんスタイル

先日、妻が世田谷パブリックシアター
劇団300の『鯨よ!私の手に乗れ』
観に行った。世代的に身につまされる話で泣いて笑ってと。
楽屋見舞いに行ったら、顔の小さな女の子とすれ違ったそうな。
どっかで見たことがある。誰だっけ。
のんちゃんだった。この芝居の舞台やチラシに彼女のイラストが使われているとか。
劇団300の新作に、のんちゃんが出るんだったら、連れてってもらおう。

今日、ユーロスペースでやっと『この世界の片隅で』を見た。
移転したユーロスペース、初見参。
渋谷ランブリングストリートにある。

前評判の良さやうわさで見た気になっていたが、
第二次世界大戦前後のの広島や呉にタイムスリップしてしまった。
当時の暮らしぶり、風習・風俗などが丁寧に描かれている。
戦時下がそんなに暗くないこと、鬼畜米英でないことは、
小林信彦の小説などでうっすらと知ってはいたが。
空襲、敗戦。喪失からのゆるやかな復興。

日本のアニメーションの素晴らしさを感じる。
まいりました。

喜怒哀楽。
ヒロインすずの声を演じたのんちゃん。
ひきこまれてしまった。
やはり彼女あっての作品なのだろう。
この天性の、とか使っても言いだろう、
コメディエンヌをなぜ使わない。
オトナの事情とは言え。

仁義なき戦い』のはじまりは、
戦後の呉の闇市を舞台にしている。
すずさんと広能昌三がどっかですれちがっていたりして。

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