トライアル記事 ボツ分

 

夏頃、書いたお試し原稿。ボツになったので公開。
このような硬いものをやさしく咀嚼する原稿のご依頼も喜んでお引き受けします。
 
なるほど!納得!接着剤と接着技術
 

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家庭用の瞬間接着剤から新幹線やパソコンなどあらゆるところでめざましい活躍をしている接着剤。接着剤にはどのような種類や特徴があるのか。そもそも接着の仕組みとは。接着剤のメリット・デメリット、接着強度の評価法など基本的なことを解説します。
 
生活の多彩な分野に密着、接着剤
はじめて出会った接着剤はプラモデル用の接着剤だったでしょうか。それとも工作用の糊だったでしょうか。現在、多くの生活シーンで使われている接着剤。木質建材、壁紙、シーリング材、家具、建築関連、土木用はもとよりエアコン、テレビ、パソコン、スマートフォンなどの家電やIT製品にも使用されています。また高速道路やタイヤ、自動車、新幹線や飛行機など社会・産業インフラ面でも利用されるなど活躍する世界を広げています。接着剤の種類と用途、接着とは何かについて述べます。
 
接着剤の種類と用途
天然素材ではなく科学的につくられる合成接着剤の誕生が接着剤を多様化・高品質化させました。現在、1000以上あるともいわれる接着剤。その主な種類や特徴、用途を紹介します。
 

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 接着とはどんなこと? 

〇接着のポイントは均一に濡れること
基本中の基本ですが、接着とはある材料と材料を接着剤で接合することをいいます。面と面で接合するので2つの材料へのひずみや応力(部材内の一定平面の単位面積に作用する力の強さ)が均一に分散されます。接着のポイントは被着材の表面を均一に濡れるかどうかにかかっています。濡れて固化することでより強い接着となるからです。接着剤を塗る前に被着材の表面をきれいにフラットにしておくことも重要です。
〇3種類の相互作用が生む接着剤の結合
接着剤の結合は機械的結合(接着剤成分が被着材表面の隙間に入り込み固化すること。投錨効果(アンカー効果)といわれる)、物理的相互作用(接着剤の分子と被着材の分子が引き合う力で接着すること。ファン・デル・ワース力という)、化学的相互作用(接着剤の分子と被着材の分子が化学反応を起こして結合)の3種類の相互作用により起こります。よく似た言葉で粘着があります。違いは接着が液体から固体へ変化するのに対して、粘着はその変化が起きないことです。
 
接着剤のメリットとデメリット
接着接合にはどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。主なものを取り上げました。
 
メリット
〇接着接合の最大のメリットは広い面でも均一に張り合わせることが可能。応力が均等に分散されるのでリベットやボルトなどの機械的接合と比較して接合部への負担を軽減、耐久性を高めます。
機械的接合は同じ材質に限定されますが、接着接合は金属とプラスチック、金属とゴムなど異なる材質の接合ができます。
〇接着接合は経年使用による接合部の緩みもなく、また振動にも強い一面があります。
〇接合時、機械的接合の場合、溶接など高温が必要ですが、高温は不要です。また溶接には熟練の技が求められますが、それも求められません。
〇熱や電気を絶縁するのでさまざまな用途で対応できます。
 
デメリット
〇耐熱性、耐寒性、耐水性が機械的接合よりも低い。
〇はく離方向の力に弱い。
〇接着性実現(硬化)まで時間がかかる。
〇接着作業者によって接着強さにバラつきが出る場合もあります。
 
接着強度はどのように評価されているの?
接着の結合力は分子間力によるものです。面全体でのせん断や均等な引張りでは機械的接合よりも勝りますが、単位面積当たりの結合強度では劣ります。さらにはく離や衝撃などの局部荷重に弱い性質があります。
また接着強度は、硬化後の接着剤の硬さや伸びで変わります。硬いものは伸びが小さく、柔らかいものは伸びが大きい特性があります。せん断強度と引張強度、はく離強度と衝撃強度は反比例の関係にあります。接着剤が硬くて伸びが小さければ、せん断強度と引張強度は高くなります。しかし、はく離強度と衝撃強度は低くなります。接着強度評価においてせん断とはく離、双方の評価は必須です。次に接着強度評価の試験内容を紹介します。
 
接着物の評価法とは
接着接合物は、屋外や厳しい状況で使用されるものも多く、接着剤にも雨や風、温度や湿度などの自然環境や外部応力にも対応する品質が要求されます。外部応力には引張り、圧縮、せん断、はく離、割裂、捻れ、曲げ、振動や衝撃などがあげられます。これらに対する接着性能を調べる試験にはISO(国際標準化機構規格)やJIS(日本工業規格)規格、JAI(日本接着剤工業会規格)規格などがあります。
 
接着強度の代表的な試験は2種類ある 
接着剤の接着強さの評価方法はいろいろありますが、スタンダードなものとして「引張りせん断接着強さ試験(JIS K 6850)」と「はく離接着強さ試験(JIS K 6854)」があげられます。
 
「引張りせん断接着強さ試験(JIS K 6850)」
両側に引っ張る力が接合面に垂直にかかった場合、接合を破壊するのに要する単位画積あたりの引張り荷重を測定します。複合床材や二次加工合板、塗料、床材料などの接着試験に用いられています。
 
「はく離接着強さ試験(JIS K 6854)」
一方または双方の被着材にたわみ性がある試験片をT形または180度の角度でひきはがす際の強さを測定します。プラスチックフイルムやゴムなどの接着試験に採用されています。

接着は古くて新しい技術
 

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物と物をくっつける接着や接着剤は、古来から私たちの生活の向上や文明の発展に貢献してきました。旧約聖書にはノアの箱舟に接着剤として天然アスファルトが使われていたことが記載されています。その接着の仕組みや特性、種類などを簡潔にまとめました。改めて接着の果たしている役割の重要性をおわかり願えたことと思います。永年の課題である環境問題を見すえながら最先端のテクノロジーを駆使、理想の接着技術や接着剤を目指し日々進化しています。
 
ライター:ソネンコフ