蝋人形にしてやろうか

望楼館追想 (文春文庫)

望楼館追想 (文春文庫)


原稿を書かないと。
企画を考えないと。
庭木を伐らないと。
扇風機を洗わないと。
ガスファンヒーターを出さないと。
礼状を出さないと。

『望楼館追想』エドワード・ケアリー著を読む。
解説を皆川博子が書いている。
これだけで、この本の魅力がわかるというもの。
違うか。

老朽化した五階建ての望楼館と主人公と風変わりな住人たち。
深く読み込んでフロア図でも作成できればいいのだが。
主人公は蝋人形館で不動の蝋人形になる仕事に一時期就いていた。
作者のイマジネーションで構築された望楼館。
そこで繰り広げられる小さな話は、
フェッティッシュ・モード全開だが、
結構、じわじわと沁みてくる。
かなり不器用なじれったいラブストーリーでもある。

望楼館自体が一つの生命体にも思えてくる。
似ていないかもしれないが、
かつての同潤会・代官山アパートメントや
青山アパートメントあたりを重ねてしまう。
夕暮れ時、代官山アパートメントを通り過ぎると、
英国スタイルのブティックのショーウィンドウの灯りが、
滲んでいた。

ぼくが文学少年や文学青年の年頃だったら、
もっと胸がキュンとなっていただろう。

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