じめじめ

 

異妖新篇 - 岡本綺堂読物集六 (中公文庫)
 

 

じめじめなんで、憑りつかれたように
『異妖新篇 岡本綺堂読物集6』岡本綺堂著を読む。

 

著者は「1872年、明治5年生まれ」。
「元御家人で英国公使館書記の息子として育つ」。

 

編者の解題によると
父親は「戊辰戦争に参戦して負傷」。
だからといって薩摩や長州へのルサンチマン
作品からは感じられない。

 

武士の特権である切捨御免がいかに理不尽かを知る。
旗本の家に生まれながら
歌舞音曲にひかれてドロップアウトする者などもいたそうで。
大店のボンボンが商才がからっきしなくて身上をつぶすとか。

 

『異妖新篇』をわかりやすく言うと都市伝説。

 

3篇取り上げると。

 

『西瓜』

西瓜を切ると赤い甘い汁が出る。
そのさまが生首に思える。
実際、風呂敷に包んだ西瓜が生首だったり、
西瓜だったり。
ほんとなのか、心神耗弱によるものなのか。

 

『鰻に呪はれた男』

かつて短い結婚生活をしていた女性の回想。
縁あって男と知り合い、結婚したが。
女性は男が内緒で鰻をそのまま
呑んだ光景が忘れられない。
秘密を知られた男は行方をくらます。
スティーブン・キングの法螺ホラーになんか似ている。

 

『くろん坊』
「くろん坊」は「からだに薄黒い毛が一面に生えている」
「人間と猿の」ハーフと言われる怪物。
その怪物が村の娘を見初めて略奪しに来る。
娘は結婚間近。
「からからと笑う髑髏」のシーンがなかなかにブラックユーモアが効いている。

 

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忌憚なく奇譚を

 

 

このニュースが気になった。

headlines.yahoo.co.jp


映画『ゴッドファーザー』でおなじみのマフィアは三ツ星イタリアンレストランを正業にしているし。

日銭商売がうらやましい。

 

まだまだ続く岡本綺堂祭。
古探偵十話 岡本綺堂読物集5』岡本綺堂著を読む。
『探偵夜話』part2。

 

話の内容がさらにバラけていて飽きさせない。
例によって好きな3篇をピックアップして
紹介しましょう!そうしましょう!

 

『ぬけ毛』
「上州の温泉場」へ療養にいった「薬剤師の男」。
そこで女性二人連れと出会う。
訳ありな二人。
一人の女性が若いにもかかわらず毛染めをしている。
事件に巻き込まれた男。
真相が明かされると。
旅情ミステリーで、まさか、百合っぽい話とは。

 

『麻畑の一夜』
コナン・ドイルの短篇の本歌取り
「フィリピン群島」のとある孤島。
麻畑の作業員が次々と行方不明になる。
気味悪がって逃げる者も。
「野蛮人か猿」の仕業か。それとも。
夜間、激しい驟雨。
見えざる敵が攻めてくる。

 

『馬妖記』
嘘かほんとか
各地にある、カッパのミイラや人魚のミイラ。
この話の主人公の家には
『妖馬の毛』が家宝として大切に保管されている。
「文禄の頃」
妖馬が出たという噂で持ち切りだった。
実際に「踏み殺された」村人。
「怪しい馬」征伐。
ついには鉄砲組の出動となる。怪獣もの。
「怪しい馬」は海に消え、
しっぽだけが残った。
虎は死して皮を残す。
妖馬は消えてしっぽを残す。


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人生はビビンメン

 

アンダー、サンダー、テンダー (新しい韓国の文学)

アンダー、サンダー、テンダー (新しい韓国の文学)

 

 

このところ、シティポップという言葉をネットやラジオで
見聞きする。
言葉も生き物で、はじめはなうだった言葉も
やがてダサくなって死語となる。
ところが巡り巡って
火の鳥のように復活する言葉がある。
どうやらシティポップもそうみたいだ。

 

『アンダー、サンダー、テンダー』チョンセラン著 吉川凪訳 を読む。

 

北朝鮮がルーツの家族に生まれた女性。
家業はビビンククス(ビビンメン)店。

 

趣味は動画撮影。
ヌーベルバーグのカメラ=万年筆ではないが、
カメラを通して十代から二十代までの出来事を
スナップショットする。

 

友人、家族。好きな音楽、好きな映画、好きな雑誌、
好きな人。

 

短い映像に自身のナレーション。

 

長いブログを読んでいるような感覚になる。

 

若い頃は誉められると鼻がこれ以上にないほど高くなる。
でも、傷つくとこれ以上ないほど落ち込む。
そんな振り子状態で進む年代。

 

じゃれ合っていた仲間も
やがて夢を叶えた者、挫折した者など、
道が違ってくる。

 

彼女は自身で撮影した短いビデオ映像を
ノートPCで編集する。


編集もビビンククスもうまくかき混ぜて
尺もしくは器におさめること。

 

岡崎京子の漫画やジム・ジャームッシュ
ソフィア・コッポラあたりの映画を思わせる
多感なみずみずしい感性。

 

元気があっておしゃれなインスタグラムを覗き見するような。

 

言ってしまえば『アメリカン・グラフィティ』ならぬ『コリアン・グラフィティ』。

 

関係ないが、ビビンメンは好きだけど、頭が割れそうで胃袋に鉄アレイが
しずんでいる、ひどい二日酔いのときは、冷麺だった。

 

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怪談14物語

 

 

固定資産税、区民税の納付書が届く。
まもなく健康保険料も、か。やれやれ。

 

玄関先の終わりかけのパンジーの鉢植えに
ド派手な毛虫、発見せり。ツマグロヒョウモンだっけ。
グラムロックな毛虫だぜ。


青蛙堂鬼談 岡本綺堂読物集2』岡本綺堂著を読む。

百物語形式でリレーで語られる12の怪談と
「単行本未収録」の2つの怪談から成る。

お気に入り3作の感想をば。

 

『猿の眼』
「引き手茶屋」を廃業して道楽の俳諧で喰っていこうとした男。
趣味の書画・骨董の大半は処分したが、
「木ぼりの猿の仮面」は手放せなかった。
猿の仮面の眼から放たれる青い光が不幸を招く。
イリアム・ ウイマーク・ジェイコブズの名作怪談『猿の手』にも
どこか通じるような。

 

『一本足の女』
物乞いの少女。薄汚れた身なりだが、よく見ると美しい面相。
彼女は「右の足が膝の上から切断」されていた。
憐憫の情から引き取る侍。
聡明な美少女に成長する。
藩が取り潰しとなって浪人の身となる。
ある夜、妻となった娘から刀についた血をなめさせてほしいと。
男は人を斬り続けては妻に血を与える。
やがて男は捕らわれる。一本足の女は、
一本足でありながらすばやい逃げ足で消える。
漂う、フェティッシュ・モード。

 

『笛塚』
「祟られた笛」だが、その音色は素晴らしく、
笛好きの心を惑わせる。
手に入れるためには手段を選ばない。
取り憑かれた笛の恐るべき謂れは。
物好きの数奇な人生。

 

「三本足の蝦蟇」「青蛙」が道端にうずくまっていればいいのに。


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やだな~こわいな~

 

 

『三浦老人昔話 岡本綺堂読物集1』岡本綺堂著を読む。

 

三浦老人って「岡っ引き半七の友人」だそうだ。
怪談の名手・三浦老人が話すこわい話、不思議な話、
しみじみする話など
12篇にボーナストラックが2篇。

 

江戸末期からご維新を経て明治時代へ。
時代が大きく変わることは
成りあがる人、おちぶれる人など
さまざまで私怨などの量も私怨計量計の
針が振りきれるぐらいだろう。

 

三浦老人は明治時代の稲川淳二か。
すべてがすべらない話。

 

前の『探偵夜話 岡本綺堂読物集4』のエントリーで
アニメ化がいいと書いたけど、
まんま落語や講談、ラジオドラマにいいだろう。

 

3篇ばかし、短く感想を。

 

『置いてけ堀』
「本所七不思議」で名高い置いてけ堀のリメイク版。
置いてけ堀で釣り上げた鰻を入れたビクになぜか蝮が入っていて。
「置いてけ」という声をシカトした祟りか。

 

『刺青の話』
刺青は粋でいなせな若衆の証だそうで。
その痛さは大変で男性よりも女性の方が生来我慢強くて耐えて
見事な色の刺青を彫り上げてもらう。
体の弱い若者が「惚れている女性」の母親に
刺青がないのは男じゃない的発言をされて
命と引き換えに刺青を入れてもらう。

 

『矢がすり』
矢場(矢を射る遊技場)に人気の美女がいた。
不似合いなほど優雅なたたずまい。
美しいご尊顔の「右の頬にうすいかすり疵のあと」が。
いつしか矢がすりの着物が定番に。
トレードマークとなってますます売れっ子の矢場嬢に。
キャバ嬢ではない。
彼女を目当てで通う若侍。
突然、失踪する矢場嬢。

 

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PDF父さん

 

会社では肩をたたかれ
家では妻の肩をたたく父さん
胃酸過多

 

埃とかび臭い資料室に幽閉
一日中、保存する文書をスキャンして
PDFにする
ヤクルト・雄平のファン

 

意外とこれが楽しい

 

PDFにした書類は
シュレッダーにかける

 

意外とこれがはまる

 

自宅用にヤフオクで中古のスキャナーを
ゲットした父さん

休日は自室のたまった手紙や写真を
PDFにする

 

捨てられない父さん
こっそりしまっておいた学生時代のラブレターや
ヘアヌード写真集も
PDFにする

 

片づく、片づく
“こんまり”信者の妻は喜ぶ

 

あとはエロ動画か
見つかれば何を言われるか
わからない

 

いっそのこと、妻もPDFにしちまおうか
マジシャンのイリュージョンみたいに
オンラインストレージで保管・管理

 

口元がゆるむPDF父さん


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娘帰る

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娘について (となりの国のものがたり)

娘について (となりの国のものがたり)

 

 

 

twitterイラストレーター河村要助の死を知る。
ニューミュージックマガジンの表紙や

ティト・プエンテなどサルサのレコードのジャケット。
とりわけニッカの黒の50というウイスキーのポスターがカッコ良かった。
湯村輝彦とともにファンだった。
レコードはとうの昔に売り払ったし、
身近にあった彼のイラストをガラケーで撮る。
小林信彦の『夢の砦』。
末期の『平凡パンチ』連載。

 

『娘について』キム・ヘジン著 古川綾子著を読む。

60代の母。「老人介護施設」のヘルパーで生計を立てている。
その住まいへ30代の娘が転がり込んでくる。
母親にとっては経済的、精神的に娘は自立したと思っていたのに。
しかもパートナーまで。


パートナーは女性。

LGBTの「L」だったわけで。
元教師の母とで当然、混乱、困惑する。

 

ぼくも同じケースに出くわしたら
理屈上(頭)ではわかる、多様性だの、ダイバーシティだのと。
でも、心情的に理解できるだろうか。
すぐには無理だろう。

 

母親はヘルパーで世話をしている身寄りのない入居者に
懸命にケアをする。

施設側はあくまでもビジネスライクなケアを求める。

娘は自己主張ばかりと思う母親。
パートナーが男だったら、義理の息子、婿という目で
最初はなじまなくても長年経てば身内になれるだろう。


パートナーの女性は、仕事や娘との軋轢で苛立つ母親を
あれこれねぎらう。拒まれるが。

 

届かない思いの先を入居者の女性に向ける。
転園される彼女を自宅に迎え入れる。

 

娘に起きた大ケガ。それは偏見によるもの。

救いようがない苦い小説。


そのほろ苦さが沈んでいたものを撹拌する。
文学ど真ん中のどストライク。

母と娘とパートナーはわかりあえる日が来るだろうか。

 

血縁、地縁などが主だった日本の家族制度も
崩壊しつつある。
ネット縁などによる新しいつながりが出て来ている。

 

ペドロ・アルモドバルあたりの映画が好きな人には、ぜひ。

 

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