「32世紀」宇宙の旅―なかなか太陽系外生命体とのファースト・コンタクトに近づかない

 

 

『マゼラン雲』スタニスワフ・レム著 後藤正子訳を読む。

 

「32世紀」「227名」もの乗組員を乗せてゲア号はケンタウルス座α星へ。目的は「太陽系外有人探査」。主人公は医師である「私」。まずは、遠征隊員に選ばれるまでの自分語りから話は進む。

 

乗組員は大人から子どもまでさまざまな世代が乗っている。さしずめ豪華客船によるグランドホテル形式の宇宙版といったところだろうか。小川が流れている公園もある。舞踏会が開かれるホールなど、快適な地球の環境を再現している。


しかし、往復で20年にも及ぶ長期間の宇宙飛行。いくら巨大なゲア号とて閉ざされた空間の中での日々では心身に変調を来たす者もいるだろう。

 

キラーフレーズ(パラグラフ)が随所にある。たとえば、こんなところ。

「星はそれぞれ、相反する二つの力が衝突するおかげで存在している。すなわち、星の質量を中心に引き寄せる重力、および、自らの巨大な圧力によって、星を膨張させようとする(光の)反射である。星は、エネルギーに変換された物質を絶えず激しく放出し、そうして何十億年も存続する」

 

ゲア号でもオートマタは活躍している。

「(アトランティス人の支配者たちは)ある時、海の向こうの遠い島に、チューリングと呼ばれる科学者が住んでいることを知ったのです。彼はオートマタを組み立てることができました」

 

32世紀、地球を武力支配しているのは、アトランティス人。

「彼は、こうして四十年間苦労して、ついに、できることならば何でも行うオートマタを考え出したのです」

 

チューリング巨大汎用オートマタの建造」にかかり、世界を制圧したと。

 

オートマタ(ロボット)の現実化、量産化にチューリングが出て来るのは、作者のチューリングに対するリスペクトだろうか。

 

こんなキラーフレーズ(パラグラフ)も。

「炎は惑星を生み出した。炎から、冷却された星の物質から、生命が生じた。そのどろりとした、ゼリー状の物質は、無数の試行錯誤をランダムに繰り返し、カルシウムの甲羅と血液、鰓と心臓、目、顎と内臓を創り出した。こうして、飽食と繁殖、緩慢な成長と急激な衰退が始まった。生き残りをかけて闘ううち、一部の生き物は海から陸に逃げ、他の生き物は大海原へ戻り、鰭は足に、足は翼に、そして、それらは再び鰭に変化した」


聖と俗、ミクロとマクロ、相反するものをあえて渾然一体化させて重厚な、あるいは込み入った話に仕立てている。

 

船内で難産の末、子どもが無事誕生したが、母親は亡くなる。そのシーンは、じんとした。また、妊娠した女性隊員もいる。宇宙飛行が一般化したら、こういう場面もあるのだろう。


なかなか太陽系外生命体とのファースト・コンタクトに近づかないなと思ったら、終盤になって核心に迫って来る。やっと。ページを捲るスピードも速くなる。


ケンタウルス座α星の第二惑星、白色惑星に宇宙人はいたのか。白色惑星人と出会えたのか。はてさて。


この本を大胆に映画化したのが、『イカリエ-XB-1(字幕版)』。1963年制作のチェコスロバキアSF映画。読む前にアマゾンプライムで見ちゃった。一周して、なうな特撮と電子音楽。ぼくはかなり良いと思ったが、作者はきっと酷評するのだろうね。出て来る男優がみな故オシム監督に思えた。余談。

 

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