やっと内定がもらえたら、そこは

 

 

『異端の祝祭』芦花公園著を読む。

 

見えないものが見えてしまう島本笑美。同級生らとつきあうことが苦手で学校や地元に自分の居場所はなかった。勉強に打ち込んで東京の大学に進学する。ようやく居場所が見つかったかと思ったが、就活ではうまく自己アピールできずに就職浪人となる。


ようやく内定を大手食品会社からもらう。やさしそうな青年社長ヤンに気に入られた。研修に行ったが、そこで行われていたのは、まるで宗教の儀式だった。


笑美はヤンにマインドコントロールされているのではないかと訝る兄・陽太。
この兄こそ妹を小さい頃から拘束していたのに。陽太はその怪しげな会社から妹を救い出すよう、「心霊案件の相談所」その手のスペシャリストである佐々木事務所へ。
話を聞く所長のるみと助手の青山。陽太とるみは同級生だった。

 

妖しげな儀式は「諏訪大社の蛙狩神事(かわずがりしんじ)」に則ったものではないかと、るみ。そして「ミシャグジ(長野県諏訪地域で古代から信仰されている神)信仰を持つ」「霊能者」である石神に奪還の助けを求める。


ヤンの恐るべき力を知って、るみは最後の切り札である天才霊媒師物部に会いに高知へ出向く。ヤンとの激しい心霊バトルに勝って笑美を取り戻せるか。

 

民俗学カルトホラー」と紹介されているが、その一つが「諏訪大社の儀式」なら、もう一つがキリスト教。ヤンは「八角教」というキリスト教系の新興カルトを信仰する家に生まれた。彼は「千年帝国」の実現を目指していたと。「イサクの燔祭」など、そのうんちくがたっぷり。読んでいて気分がふさぎ込んでくる。滅入って来る。あ、誉め言葉。このうんちくがないと平板な心霊バトルものになってしまう。

 

るみの不幸な生い立ちと特殊な霊能力。彼女はなるべくして今の仕事についた。

 

しかし、洗脳が解けたとしても本人は幸福なのだろうかと素朴に思う。

 

ヤンって誰かに似ている。誰だろと考えていた。『エヴァンゲリオン』に出て来る渚カヲルだ。やさしくて、とらまえどころのない感じ。


白黒つかない、意外なオチ。この感じが作者の世界なのだろうか。他の作品も読んでみないとわからない。

 

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