『なつみずうみ分光器-after 2000現代短歌クロニクル-』瀬戸夏子著を読む。
短歌のすそ野が広がっているのは、なんとなく知っている。基本三十一文字の短歌はsnsとの親和性も高いし。
「じゃあ、ヤマダくん、歌人で知っているのは?」
「『サラダ記念日』の俵万智」
「オオキさんは?」
「石川啄木。わたし、岩手、出身なんです」
どんな短歌があって、どんな人が詠んでいるのか。この本は「2000年から2020年の間に出版された歌集を」厳選し、歌風などをキュレーション。
4ページにまとめて歌集名・歌人名・プロフィール・代表的な短歌の解説、歌風・その他の短歌紹介という構成。
いやあ表現方法やテーマが実に多彩。あえて伝統にのっとっているものもあれば、ラップのリリックのようなものもある。女性の情念やフェミニズム、社会的なテーマを訴えるものもあれば、ほとんど意味のないものもある。
まずは一読して、好きな新しい短歌を見つけよう。
ぼく的に好みのものを十首、選んでみた。
「きららきららさくらに食われつぎつぎに人溶けてゆく天国だもの」渡辺松男
「ベランダでUFOを呼ぶ妹の呪文が響くわが家の夜に」笹公人
「幽霊がペディキュアを塗りあふやうな一夜だ萩が風に乱れて」魚村晋太郎
「さようならことばたち対応項を失った空集合たちよ」中澤系
「死に場所のなお決まらざる蝉ありて差し出せばわが指につかまる」松村正直
「手のひらに日毎に滲みて石鹼はひと冬かけて私のなかへ」小島なお
「じゆんぱくのシーツのうへにはっこうした麺麭生地のやうにおかれてあなた」川崎あんな
「花器となる春昼後刻 喉に挿すひとの器官を花と思えば」佐藤弓生
「ほんとうの名前を持つゆえこの猫はどんな名で呼ばれても振り向く」鳥居
「アネモネ領 きみの瞳の奥にあり門ひとつなし北へと続く」森島章人