森は異界への秘密の扉

 

 


『始まりの場所』アーシュラ・K・ル・グィン著  小尾芙佐訳を読む。    -


自分だけの秘密の場所ってある?鉄条網に囲まれ、てっぺんには避雷針のついた火薬庫、ドングリがいっぱい実る木、木っ端が山のようにある製材所の裏のゴミ捨て場、ターザンごっこ用のロープがかけてある神社の雑木林…。そんなお気に入りの場所が、この物語の扉となっている。

 

ヒューは、スーパーマーケットのレジ係。給料をためて、学費を捻出して大学へ行き、図書館司書になろうと漠と考えている。小うるさい母親との生活にも、うんざりしているのだが、そんなある日、突然、森を発見する。街とは遮断された静けさと安らぎにあふれた空間。彼は、たちまち、森がお気に入りとなる。

 

いつもたそがれていて、時が停止している、不思議な森は、彼にとってのサンクチュアリとなったのだ。自分の王国だと思っていた森には、実は、もう1人住人がいた。イレーナという女の子だ。そのことを知った彼は、聖域が侵犯されたと勘違いして彼女を責める。

 

ところが、彼女のほうが、森には何度も来たことがあり、そしてさらに、この森には先住民族が棲んでいた。テンブレアブレジと呼ばれる地に住むサルク首長(ほんとは酋長なのだろう)とアライア。二人はヒューたちに、この地を滅ぼそうとしている竜退治を懇願する。サルク首長とアライアは、森から抜け出ることはできないからだ。

 

イレーナがナヴィゲーターを務め、長老からもらった剣を手に旅に出る。艱難辛苦を乗り越えて(そうでもないか)、ヒューは竜をやっつける。おっ、ドラ・クエかよ。二人は、旅を通してお互いをよく見つめ合い、いつしか恋心が芽生える。

 

それぞれにとって始まりの場所でもあり、二人にとって恋の始まりの場所でもある。うーん、爽やか。作者というと枕詞のように、ユングの影響が…というのが、出てくるが、そんなの抜きにしても楽しく読むことができた。『闇の左手』や第一巻で挫折、リベンジしようと思っている『ゲド戦記』に比べると、読みやすい。RPGでいうところの一本道ってヤツに近い。

 

でも、ほんとんとこは、竜が出てくるシーンや竜に対する首長たち民族の永年の葛藤や対立の歴史、ウラミ・ツラミとか、もっとおどろおどろしくしてほしかったんだけど、これって、スティーブン・キング病なのかな。この本は、ファンタジーに対してのある種のリトマス試験紙代わりになるかもね。

 

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