孤島もの、ゴシック、少年愛、密室殺人、異常心理学が混然一体となったペダンチックなミステリ

 

 

『弔い月の下にて』倉野憲比古著を読む。


以前、テレビで隠れ切支丹の特集を見たことがある。たぶん、世界遺産に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が認定された頃。正式名称。調べますた。

 

キリスト教徳川幕府に禁じられ、聖母マリアと観音様をミックスしたマリア観音像など信者はひっそりと信仰を続けていた。明治になってキリスト教の信仰の禁が解かれても、隠れ切支丹を辞めない人たちがいた。彼らにとっては代々伝わって来たものが、信仰に値するものなのだろう。それは独自で過剰で奇異なもの。他大陸との交友でできないオーストラリア大陸でカンガルーやコアラなどの生物が独自の進化を遂げたようなものか。

 

さて、本作は舞台が壱岐沖の孤島・弔月島に建つ淆亂(バベル)館。隠れ切支丹の子孫である資産家・黒羽伊留満が建てた洋館。そのさまは異形。物見遊山感覚で島にやってきたのが心理学を学ぶ夷戸たち3人。着岸するや否やボートは館の使用人であるマーカとミーシャに沈められ、夷戸たちは館に軟禁される。


館には同様な来訪者がいた。舞台俳優の東條と蜷川、雑誌記者木邑、カメラマン石崎。彼らは謎の失踪をした俳優・曽我進一郎を追って来た。曽我が現在の館の当主という。

 

曽我らしき男の姿が見えた。一行が姿を追うと、そこには暖炉で焼死した死体が。顔が焼けただれ判別不明。その動機は。「顔のない屍体」。夷戸が黒羽伊留満の仕業かもしれないと推理する。死体は実は曽我ではなく黒羽だったら。密室殺人?

 

マーカとミーシャの義理の父でもある館の主・黒羽伊留満は、亡くなっていた。マーカが「18年前に」殺したことを告げる。

 

伊留満は、かつて嵐で難破した漁船から漂流していた少年を救出する。天使のような美少年。記憶を失くした少年にエゴルーシカと命名する。神に仕える身でありながら恋愛感情を抑えることができない。そしてレイプする。記憶の一部が甦った少年は伊留満に殴りかかる。逆上した伊留満は、エゴルーシカを殺してしまう。おぞましいシーン。

 

伊留満と曽我の容姿が似ていた。それゆえ館の主人にマーカとミーシャは迎えた。曽我は有名俳優だったが、女癖が悪い、セクハラゲス野郎だった。その曽我はなぜ失踪したのか。なぜその曽我を執拗に追い求めているのか。夷戸が解明に立ち向かう。黒羽伊留満の亡骸が発見される。

 

孤島もの、ゴシック、少年愛、密室殺人、異常心理学が混然一体となったミステリ。もっともっとペダンチックでもよかった。

 

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