愛は気まぐれ

 

 

『打ちのめされた心は』フランソワーズ・サガン著 河野万里子訳を読む。

 

かつて隠れサガン派だったぼくにとっては、新潮文庫版のサガン著、朝吹登水子訳、
ベルナール・ビュッフェ画は3点セットだった。「隠れ」は深い意味はないけど。

 

タイトルのキャッチーさと世の中のしがらみに負けないで
自由に生きようとする登場人物である女性の姿がカッコ良く見えた。

 

この作品は未発表長篇。「死後15年を経て奇跡的に発見」されたそうだ。
決定稿を仕上げる前に亡くなってしまったとか。

息子よ勝手なことをするなとあの世でサガンは怒っているのだろうか。
よく出版してくれたと喜んでいるのだろうか。

 

主人公は資産家のクレソン家の当主・リュドヴィック。
彼は妻マリー・ロールの運転する車で事故に遭う。
妻は無傷だったが、夫は大けがを負う。
生死が危ぶまれていて、その間、妻は夫の亡くなった人生を設計する。
ようやく気持の踏ん切りがついた頃、夫は生還する。


不死身のリュドヴィック。

しかし、妻にとって彼は生ける屍のようにしか見えなかった。
決して嫌いではない、好きなことは好きだ。
でも、以前のように愛する気持ちは消え失せてしまった。
似合いのカップルだったのだが。

 

美術館のような佇まいの大邸宅に、
妻の母、彼にとっては義母のファニーが訪れる。

 

美しいマリー・ロールの母親もまた美しくて若々しい。
心の傷が癒えないリュドヴィックは、次第にファニーに惹かれていく。
年上の包容力ってやつかな。

いまの妻には感じないような強い思慕の情を抱きはじめる。
死火山からいきなり活火山へ。
ファニーも彼に好感を持っていた。
やがて一線を超える関係に。


太宰治は『人間失格』で物事をコメ(コメディ:喜劇)と

トラ(トラジディ:悲劇 )に分けていたが、
コメとトラは表裏一体ということをこの本は教えてくれる。

それから、どことなくチェーホフ味を感じさせる。
華やかさと寂寥感、ほどよい甘みとほどよい苦味のベストマッチング。


サガン自身が経験した自動車事故がモチーフになっているそう。

 

この本もきちんとベルナール・ビュッフェ画を表紙に使っている。
友人だったそうだ。
「1975年型ジャガーEタイプ」。流線型のスタイリングが美しい。


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