シャーリイ・ジャクスンが書いたホームドラマ

 

 

『壁の向こうへ続く道』 シャーリイ・ジャクスン著 渡辺庸子訳を読む。

 

作者の長篇小説第一作目がようやく日本語で読めるようになった。
訳者あとがきによると、作者は短編、しかもこわいもの、イヤなものが売れ筋で
通常の小説ではビジネス的にどうかなと出版社が二の足を踏んでいたらしい。
二の足を踏んだ版元に感謝。

育児エッセイ『野蛮人との生活』も文庫復活するようだし。
と思ったら、発売が延期、未定となっている。

 

舞台は1940年代サンフランシスコ郊外の閑静な住宅街。

壁でさえぎられたペッパー通りに住む11の家族。
やたら登場人物が多いので「群像劇」というカテゴリーだが、

わかりやすく言うならホームドラマ
シャーリイ・ジャクスン版『渡鬼』ってとこ。

 

それぞれの家族は人生観や倫理観、躾やインテリア、収入や価値観も違う。
皆が皆、仲良しとは思えないが、道で会えば笑顔で挨拶を交わしたり、

天候の話などをする。

内面には嫉妬や軽蔑、優越感や劣等感など黒いもので満ちている。

家庭内での母親が子どもに話すご近所さんの評価は、

子どもたちにも大きな影響を及ぼす。
井戸端会議の噂話を聞きつけた子どもはそれを真に受けたりして。
誤解が差別やイジメを生む。

このあたり、作者の十八番(おはこ)。
ほんとうに隠しておきたいところを容赦なくさらけ出す。
ホームドラマの真骨頂も実はそこだよね。

 

この作品にも家庭を掌握している独裁者の老婆が、

嫁と家族を追い出すシーンが出てくる。
息子は早逝した。すがる嫁に二の句も告がせない。

ペッパー通りにはアパート群が隣接していて、
偶然顔なじみになった中国人の男性の住むアパートに招かれたお嬢さんたち。
彼がオーナーではなく下男であることを知ってからの上から目線。などなど。

 

世の主婦たちがお菓子をつまみながら橋田寿賀子脚本のドラマを見るように、
うなずいたり、怒ったり、ツッコミを入れたりするように読んだ。

 

壁でいい按配に隔離されたペッパー通りに新たな家族が越してくる。
新参者ゆえただでさえ注目、つーか、この地区の住人として見合うかどうか

品定めされる。新たな家族は、エキセントリック。異質な存在だった。

 

さらに壁が壊されることに。古株の住民たちは不安に思う。
年齢を重ねるにつれ、環境が変わることを好まなくなる。

 

そして悲惨な事件が起こる。たたりや悪霊のしわざではないが。
犯人は最後までわからないまま。

 

やっぱり、イヤミスだった。んでもって人間がいちばん怖いことを改めて知らされた。

 

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