世界を肯定する哲学。つっても保坂和志じゃないよ、トマス・アクィナス

 

 


『世界は善に満ちている     トマス・アクィナス哲学講義』山本芳久著を読む。
哲学に関心のある学生と哲学者の対話で話が進む。

 

トマス・アクィナスって中世のスコラ哲学者?神学者?のエライ人ぐらいしか知らなかった。


「トマスの主著である『神学大全』は、日本語訳で全45巻もあります。―略―日本語訳全45巻のうちの第10巻が感情論の部分の翻訳になっています」

 

神学大全』は、とても読み切れないから、作者にその肝の部分を教えてもらおう。

 

「トマスの感情論の特徴は、「感情には明確な論理がある」と考えるところにあります。―略―とっかかりとして「希望」についてトマスが解説している部分を
見てみましょう」

 

感情と論理、換言するなら、パトスとロゴス。相容れないもののように思うのだが。

 

「「希望」の対象の第一条件―善であること」
「希望」の対象の第二条件―未来のものであること」
「希望」の対象の第三条件―獲得困難なものであること」
「希望」の対象の第四条件―獲得可能なものであること」

 

小見出しのみを引用。


「あとがき」からトマスの功績や役割を。

 

「トマスは、イエス・キリストの淵源するキリスト教の「神学」と、キリスト教が誕生するはるか前に古代ギリシアにおいて栄えた「哲学」―とりわけアリストテレスの哲学―とを深く結びつけ、統合することによって、「神学」においても「哲学」においても新しい地平を切り拓いた人物である」

 

「神学」と「哲学」を「統合」してしまうとは。

 

アリストテレスがラテン・キリスト教世界(今の西ヨーロッパ)に―略―大きな影響力を持つようになった、12世紀後半以降のことであった」
「12世紀半ばになると、イスラーム世界を経由して、ラテン・キリスト教世界にアリストテレスの著作群が流入してきた。そして、最初はアラビア語からラテン語に、次第にギリシア語の原点からラテン語に翻訳されていった」
「保守的なキリスト教神学者のなかには、キリスト教が誕生する前に活動した「異教徒」であるアリストテレスの著作などをキリスト教神学のうちに持ち込む
べきではないという見解も根強く存在した」

 

アリストテレスの哲学もまたイスラーム世界からのものだとは。

 

「「憎しみ」の根底には「愛」がある」

 

これもえっ?と思ってしまう。作者は哲学者にこう語らせている。

 

「自分の心が「憎しみ」一色で塗りつぶされそうになるとき、「憎しみ」という否定的な感情のみでなく、「愛」という肯定的な感情が心のうちに潜んでいることに気づけることは、少なくとも私にとっては大きな救いとなりました」

 

このようにトマスの哲学には「現代の心理療法」につながるものがあると。
「心には自己回復力がある」って「レジリエンス」のことではないか。

 

哲学者の発言を一部引用。

「「悲しみ」を真に悲しむことができれば、その自然な心の動き、それ自体のなかに、「悲しみ」が自ずと和らぎ癒されていくというはたらきが含まれている。人間の心には、このような自然な自己回復力が含まれているのです」

 

トマスの哲学は古びていない。それどころか新しい。

 

「言葉にはいろいろな種類があって、たとえば、新聞やテレビのニュースやSNSの言葉などは、新しい情報をすぐに伝えてくれるが、すぐに古びてしまう。―略―それに対して哲学の言葉というものは、すぐには役に立たないかもしれないが、少しずつ、持続的に大きな影響を及ぼしていく」

 

これは言えてる。哲学ばっかじゃないけど。文学や詩歌、クラシック音楽なども含まれるけど。

 

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