映画『マタンゴ』の原作『夜の声』などクラシカルな海洋怪奇小説短篇集

 

『夜の声』W・H・ホジスン著 井辻朱美訳を読む。

船員体験をもとに小説を書いたというとメルヴィルがパイセンだが、作風はホジスンの方が怪奇によりフォーカスしているような気がする。
単純にわかりやすい。ま、本作は短編なので怖さを文章量的に凝縮しているからなのかもしれないが。何篇か、手短にあれこれ。


『夜の声』
北太平洋」上を航海中、声が聞こえる。ボートが近づいてきた。男は婚約者との漂流譚を話す。キノコが増殖した船内。飢えた二人はキノコを食す。すると…。お時間のある人は『マタンゴ福島正実著と読み比べるといいだろう。いかにいいとこどりをしているか。本家の方もキノコは不気味なのだが。

 

『熱帯の恐怖』 
メルボルンを出帆後、酷暑で眠れたものではないある夜、ぬるぬるとした大きい蛸のような正体不明の怪物が船を襲う。夢かと思ったが、夢ではない。最年少のジョーキイが惨たらしく殺される。敵討ちだ!手斧を振り下ろす。

 

『廃船の謎』 
船の墓場、サルガッソー海。凪状態で船は進まない。そこへ古い船が。海藻が絡みついた廃船らしい。ところが、灯りが漏れ、銃声が聞こえる。廃船を調査することに。動物臭のする船内へ。危険を察知して調査はすぐに打ち切り退散。追ってきたものと激しいバトルになる。血まみれ、命からがら。その正体は。

 

『グレイケン号の発見』 
1年前、行方不明になった「グレイケン号」。そこには友人・ネッドの恋人が乗っていた。亡くなった伯父の遺産を相続した「わたし」は、船を入手して「グレイケン号」の消息を追う航海に出る。同乗したネッドは意気消沈したまま。サルガッソー海で見つけた船がそうだった。船にいたものは。恋人は。

 

『カビの船』
船医の昔話。「船医として英国からシナ行き」の帆船に乗っていた。マダガスカル島沖で台風に遭い、「数百マイル」流される。船は大きなダメージを受ける。そばに古い廃船がいた。廃船に乗り込むとずぶずぶと足元が沈み込む。全体が分厚いカビで覆われた船だった。カビは動物のように、しかも敏捷に動いて船員たちを襲う。読んでいてついくしゃみを連発した。
 
『ウドの島』
「ジャット船長」は「キャビン・ボーイのピビー・タウルス」がお気に入り。「ギャラット号」は停まり、船長はボートで島へ向かう。ボートには「射撃の名手」でもあるピビーが待機。しばらくすると島からいくつもの光が見える。銃声も。船長がボートを寄せろと。追っていたの松明を手にした顔のない巨人の女性たち。彼女たちは「ウドの女、悪魔であり、巫女でもあると」。

 

『水槽の恐怖』
東海岸にある別荘地帯」には、「巨大な鉄の水槽」があった。そこは素晴らしい眺望が楽しめる観光スポットでもあった。夜の散歩を楽しんでいると、老人の死体が。続けて警察官が殺される。犯人はすぐに確定、逮捕となる。容疑者は「わたし」の「婚約者の父」だった。不審に思った「わたし」と「トイントン医師」。真犯人は「ちびの悪魔」だった。「オカルト・ミステリー」『幽霊狩人カーナッキ』につながる作品。

 

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